プロローグ/エピローグ

キャスパ




 透明な鏡の国で泣いていて世界全部が痛みの光
 廣西昌也
 
 
 喉が渇いた、と男は言った。
 その声は受話器に流れ込みコードを伝い、六階分の配線をぐるぐる下って電話番の耳に流入し、電気信号が電話番の脳に到達した。電話番は左肩に受話器を挟み応対しながら右手で内線番号をプッシュして、結果僕が呼び出された。僕はストレッチャーを押して業務用エレベーターに乗り込む。扉が閉まるとそこには「笑顔 清潔 忍耐」とHG創英角ポップ体で書かれた紙が貼られている。僕は天を仰ぐ。オレンジ色の6がぽんと点灯する。
 六階の廊下は無人で、一歩踏み出せば濃い苔みたいな絨毯が靴裏で潰れる。僕はストレッチャーを押し、肩が壁に触れそうなくらい廊下の際を歩く。突然客室のドアが勢いよく開いてお客様が銃で蜂の巣になりながら転げ出て来てもぶつかることの無いよう。むしろ僕の腕の一本や二本などどうでもよく、お客様のシャツにアセロラジュースの汁一滴でも散ることのないよう。ここには世紀末SFのように厳格なヒエラルキーが存在し、僕には捨て駒程度の価値しかない。特にここ六階で失態を演じると、下手すれば馘だ。
 ジャングルの名を冠する我らがホテルの、胡蝶蘭を模した照明や葦が伸びる湿地柄の壁紙や、あちこちに置かれた本物の熱帯植物の葉陰には、獣の金の瞳が潜む。六階は肉食獣のためのフロアだ。息を殺している。窒息しそうになる。
 時々僕は、誰でもいいから最初に廊下へ出てきた客に頭からコーヒーをぶちまけてやりたくなる。無理難題を要求してくる口に換えの灰皿を突っこみたくなる。歩なりポーンなり駒ならさっさと捨ててくれ。僕は多分漠然と自棄になっていて、全ての仕事に対して致命的に飽きている。自分の人生に対して倦んでいる。ここ六階で失態を演じると、下手すれば死だ。
 ストレッチャーの上には控え目な桃の枝の彫りが入った盆が載っており、盆の上には水鳥を模した水差しとグラスが二つ載っている。六〇二号室へチェックインした客は男一人だった。
 僕はストレッチャーを脇に引き寄せ、ドアを二回ノックする。鋭すぎず響く音は、右手を軽く丸め人差し指と中指の第一関節でドア中央を叩くのがこつだ。これはこちらに敵意がないことを示す合図でもある。緊急の場合は二回ノックの後間を置かず二回ノック。さらに緊急の場合はノックなしにマスターキーで開錠するか、小型の火薬で鍵穴ごと吹き飛ばす。廊下は相変わらず無人で、カーペットが些細な音も吸収し、しんと静まり返っている。やがてドアが内側から開く。
「あー、ありがとう」
 男はにこにこしながら言って、扉を押さえたまま一歩下がる。ディスカウントストアで売ってそうな薄いアロハシャツ。庶民的な恰好はここでは逆に浮く。どこかの下っ端だろうと僕は推測する。取引の仲介なんかで割と高級なホテルに泊まることができ、喜んでる田舎のチンピラといったところか。組織の捨て駒といったところか。僕は盆を手に持ち、失礼いたしますと会釈して部屋に入る。
「なんかその辺、机の上にでも置いといて」
「承知致しました。」
 蔦を模したシャンデリアが下がり、椰子の木を様式化した帽子掛けのある広い客室は整然としていて物がない。白く皺ひとつないベッドの上にスーツケースは無く、ドレッサーの上に電気シェーバーも整髪剤も無い。客を待っている部屋だ。テーブルの上にはワインのボトルとグラス一対、それから白い紙箱がある。人間の頭が入るくらいの大きさ。ホールのショートケーキが入るくらいの大きさ。昔から、ケーキなんてものはお前の歯と頭を腐らせるだけのものだと教えられてきた。それとは別口で、そもそも僕は苺ソースの見た目が好きじゃないから、別に食べられなくても構わなかった。
 この仕事で一番大事なことは、見ないように見て何も口にはしないことだ。僕は音を立てないよう盆をテーブルに置く。
「悪いな」
 背後で男が言った。
 マニュアル的には、いえ、また何かございましたらお気軽にお声がけ下さいと応じなければならない所だけど、そんな余裕はなかった。後頭部が何か重く固いもので殴打される。がつんという衝撃で思考は木っ端微塵吹き飛んだ。膝が崩れた。鐘の音みたいに反響が尾を引く頭を抱えつつ僕は体勢を整えようと這う。見上げるテーブルで、透かし彫りの入ったグラスが光を拡散させ周囲に放つ。死の可能性が肌にひりつくほど近づくと、瞬間視界は馬鹿みたいに澄んで鮮烈になり、首や手首やこめかみに血液がどくどく流れていることに気付けるようになる。自分が今生きていることに気付けるようになる。僕はテーブルの淵にしがみつき、縋って立ち上がり男に向き直る。右手の中にはポケットから抜いた小型ナイフがある。
「ごめんまじで」
 男は待っていたように僕の鳩尾を殴った。鋭い痛み。
 現実がふっと背後に遠のく。
 二三七号室のお客様から、洗面所のシンクが詰まったとご連絡があった時の記憶がフラッシュバックする。何か変わったものをお流しになられましたか?熱いゼラチンを少々。マダムは意味深な赤面を畳んだレースのハンカチで隠した。少々?
 一箱ほど。
 僕は黄緑色のゴム手袋をはめ、左手をシンクの縁につき、食道みたいにぬめって奥へ伸びるパイプに右腕を突っこんでいく。右肩まで排水口に呑まれそうになる。頬がシンクに着きそうになる。指先が胃液に、どろりと固まりかけたぬるいそれに浸かった。僕は右肩から上は涼しい顔のまま未消化の詰まりをかき混ぜる。
 がぽりとあぶくの音がして、指先の水圧が引いた。それから一気に濁流が逆流してくる。とっさに腕を引き抜くが間に合わず、顔に飛沫が散った。引き上げたゴム手袋の指先から髪の毛のゼリー寄せが糸を引いた。
 走馬灯を見る僕の喉を、逆流してきた酸が焼く。むせて少し吐く。後で片付けなければ、もし後があれば。ぐったりした僕の胸倉を男が掴み、引きずる。タイが千切れた。身だしなみの乱れは心の乱れとHGP創英角ポップ体で書かれた文章が脳裏をよぎる。
 僕はぐったりしたまま右手の中でナイフを回して鞘を外し、逆手に持ち替えて僕を掴む男の肩に突き立てる。紙みたいなアロハシャツを抜け固い筋組織に刺さり肩甲骨の硬度で震える感触が手に伝わる。痛え、と男はぼやくが、それだけだ。僕の身体から再び力が抜け、ナイフが床に落ちるが、カーペットが音を吸収する。僕は使用済みシーツの詰まった帆布袋みたいに引きずられ、椅子にどさりと置かれた。軽い籐椅子ではなく、二人がかりで運ぶようなどっしりした皮張りのソファ、ひじ掛けに男は拘束バンドで、僕の腕を手早く括りつける。僕は特に抵抗もしないままそれを眺めている。客を待っている部屋か。
 例えば熟練の料理人が片手でフライパンにパターを回しながら溶き卵を流し入れ、軽く揺すって半月型に巻き焦げひとつなく皿に滑り入れるように、プロにはプロの動きがある。男の一挙手には無駄がない。戦闘に関して僕に勝率があるのかは疑わしい。実地訓練はしたことがないに等しい。捨て駒たる僕が今まで生きてこられたのは、捨てられる局面に恵まれなかったからというだけだ。
 一度死が肌を掠めてしまえば、漠然とした厭世観など吹き飛ぶ。チーク材のシェルフの上には白黒のマーブルチョコレートじみたアンモナイト型置時計があり、微かな秒針の音が聴こえる。時間というのは流れていくものであり、せき止めたり巻き戻したりできないのだという真理を僕は今になって真に理解する。今やありとあらゆる思考が啓示の如く閃く。死とは、死ぬということだ。
 見苦しくゲロるくらいなら舌噛んで死ねよ、とは中林さんに教わった。中林さんは職業斡旋所のチーフで、僕の指導担当だった。まだほとんど子供だった僕は頷いた。自分の命など、捨て駒としてグレートゲームの中で消費してもらえて光栄だと考えていた。あの頃はまだ、不眠、食欲不振、倦怠感、慢性疲労、破壊衝動に悩まされる前だった。
 男はテーブルの方から籐椅子を一脚引きずってきて、逆向きに跨るように座って背もたれの上で腕を組んだ。僕は平然としたまま口の中で軽く舌を噛んでみている。正直、弾力があり案外分厚いこれを噛み切れる気がしない。
 ある程度過激な宗教的思想を持った組織というのは、上層部が夢想家である試しが多い。これも僕が学習したことの一つで、HGP行書体で半紙に書いて飾っておきたい。名誉の自死を選ぶには、僕は俗世に、俗世の中でも俗が溜まったこのホテルに浸かりすぎた。一度、我らが最高幹部の一人がご宿泊あそばしたことがある。我らが幹部様が深夜にチョコバナナファッジサンデーをご所望になったことも、僕が墓まで持っていくべき機密の一つに数えられる。
 そして墓は案外ここから近くで、その歯無しの黒々した口をあけているのかもしれない。
 男は水鳥の嘴からグラスに水を注ぎ、一気に一杯飲み干す。白い喉仏がごくりと上下するが僕には投擲に使うナイフも無く、両手をひじ掛けの上で軽く握り締める。それで隙間ができるような留め方はされてない。一瞬、嫌な単語が脳裏を掠めた。兵糧攻め。男はアルコール飲料のコマーシャルみたいに唸る。
「旨え。やっぱホテルの水だからか。どっかのアルプスから汲んできてんの」
 僕は黙っている。男にホテルマン的マニュアル対応を披露する気も世間話をする気もなく、何より口は災いのもとだ。男は山から汲んできた根拠でも探すようにしばらくグラスを掲げて水を透かし見ていたが、やがて静かにグラスを置いた。
「お前、目だな」
 答えが分かり切ったそれは質問でも確認でもなく、かつ口は災いのもとだから僕は黙っている。クレーム対応を通じて得た真理だ。
「俺は歯だ」
 そう男自ら名乗ったのは想定外だったけど、答え自体はもっともだった。むしろ歯の人間以外に襲われる心当たりがない。名乗られたところで、握手して友好関係を築いていける立場でもない。一瞬、嫌な言葉が脳裏を掠めた。死が確定した人間は聞き手に最適。
「乾杯でもしたいところだが、お前、拘束解いたら暴れるだろ」
 男は笑って言う。盆の上には乾いたグラスと汗をかいたグラス、雫が一滴伝い落ちる。「そこにケーキもある。なんか洒落た、チョコのやつで、多分蝋燭全部立てたら松明みたいになる」
 蝋燭を立てるということは誕生日ケーキなのか。僕は内心狼狽を悟られまいとする。チョコのケーキ、教義によれば遅効性の毒と変わらない。食べたことなどないはずなのに、なぜか僕はその味が分かる。僕が客だとすれば、なぜこいつは僕の誕生日を知っている。
「目的は」
 ようやく口を開く。この答えを聞けば多分僕は殺されるだろうが、まあ、聞かなくてももう無理だろう。時間を稼ぐほうに賭けた。太古から姿を変えずアンモナイトは控え目な音で、規則正しく時を刻み続けている。男は二杯目の水を注ぐ。
「俺だってお前と同じく下っ端だから、上のやつらが何考えてるのかは知らん。なまじ成金主義なだけならともかく、そこそこまじで教団に入れ込んでるから俺みたいな下民には推し量れない崇高な全体像が見えてるんだろう。そうじゃなきゃやってらんねえよ」
 男は酒みたいに水を呷る。僕は自分の運命を改めて噛みしめている。上への不満を敵対組織の人間に愚痴っておいて、友好的に手を振りあって別れるなんてことはありえない。
「お前も大変だったろ色々。飲めよ」
 男はグラスに水を注いでこちらへ差し出すが、縁に劇薬でも塗られていかねないので僕は男を見返して黙っている。そもそも受け取る両手が塞がっている。
「強情だな」
 男は言って、代わりに水を飲み干す。僕は秒針の音を数えて心の平静を保つ。男は空になったグラスの底に目を落として少し黙った。
「今、俺のポケットにはペンチが入ってる」
 そう言うと肩をすぼめるようにしてズボンのポケットを漁り、金属の無骨なペンチを引っ張り出す。軽く振って、ことりと傍らのテーブルに置く。
「それからニッパー。六サイズ揃ったドライバーがこれで、レンチがこれで、硫酸がこのボトルで、鑢と鋲。」
 男はポケットに納まりようがない量の工具をサイドテーブルに並べてみせる。使い道は一言も説明されずとも、全て分かる。
「軽い配線工事とか、古いラジオの修理くらいならこれでできる。俺もこんなもん持ち歩くようになるとはな、大した成長だよな」
 そう笑う男を見て、僕は首筋から背中にかけ嫌な汗が滲み出るのを感じている。屈託のない笑顔は図画工作で作った空き箱のロボットを指導教官に褒めてもらいたがる子供みたいに見える。こいつは、そういうタイプなのかもしれない。嬉々として人間を材料とした工作に勤しむタイプなのかもしれない。
「訊きたいことがあるなら、残念だが僕は役に立てない」
「何で?」
 捨て駒だからだ。トカゲの尻尾だからだ。「特派員の中で下級に属するからだ、あんたが欲しがるほどの重要機密へのアクセス権が無い」
 僕は正直なところを話す。だから僕の皮膚を削いだり鋲を打ち込んだりするのはただの徒労に終わる。無駄な仕事はしたくないだろうことを前提にした話だったから、男の表情がまだ曇らないのを見て僕の中の疑いが一段階深まる。仕事イコール娯楽であった場合はもうどうしようもない。男は嬉々として僕を解体するだろう。
「別に、脅して聞き出そうってわけじゃない」
 男は苦笑して言うが、サイドテーブルの上で鈍く光っている工具たちが視界に映っているせいでいまいち説得力がない。
「お宅の三代目のガキがうちの二代目のご息女と駆け落ちしたのは知ってるな」
 僕は頷く。下級でも知っているどころか軽いアングラネットニュースにまでなって、お笑い種だ。その波紋が及んだ結果僕の同期だった女と職業斡旋所の中村さん一家含む数十人が粛清、うち三名が浄化されたのも含め、笑うしかない。
「で、ピリつきつつバランスを保ってた目と歯がバチバチになった。親父たちが睨み合ってる間に、歯の三代目は首吊って死んだ。」
「は」
「妹と婚約してたんだよ。逃げられたから吊った。すごい感傷的だよな」
 僕はまだ茫然としている。そのクラスの情報は発生した瞬間厳重にアクセスが制限され、幹部クラスであっても不審死すれば葬儀は極秘裏に行う。まして死因など洩れようがない。ペンチを振り回しながら世間話のように喋るこの男は何者なのか。
「で、いま両組織ん中から裏切り者を探そうとどっちも躍起になってる。駆け落ち含む密通が、組織内の人間の手引き無しには不可能だった。歯の方は誰も彼も密告しまくりだ。俺も何件かされた。さすが歯、噛みつかずにはいられんらしい。目の方は、上層部以上は確実に血眼で罪人を探し回ってるよ。お宅の十八番は監視だもんな」
 情報の量に脳がパンクした。茫然としている僕の目の前に、男は踵で地面を蹴って椅子を前に引きずり、にじり寄る。
「俺がお前に求めるのは」
「僕は何も知らない」
「ああ?バカップルのことなんかどうでも良い。俺がお前に求めるのは」
 見開かれた男の目が酷く充血していることに気付く。今まで見逃していた狂気の影に気付く。
「思い出すことだ」
 僕の頭の中は一連の出来事で空き倉庫みたいにがらんとなっており、所々に太字で書かれたホテルマン心得が(「お客様のご要望にNOとは言わないこと」)貼りつき風に弄られているだけだ。思い出そうにも頭が回らない。
「チョコバナナファッジサンデー」
「は」
 僕は目の幹部が深夜に内線電話でチョコバナナファッジサンデーを持ってくるよう命じた話をするが、途中から自分でも何を喋っているのか分からなくなる。とうとう顔をしかめた男が遮って止める。
「なんか誤解してるみたいだな、あのな、そんなことはどうでも良い」
「でもそんなことしか話せることが無い」
「ある。忘れてるだけだ」
  
「目のことなんて本当に何も」
「違う、だから一回、目から離れろ。目からも歯からも駆け落ちした青いガキからも離れろ。ホテルの仕事なんか忘れろ。全部どうでもいいことだ。俺が思い出して欲しいのは、もっとずっと昔のことだ。」
 男の目は爛々としていて、そのまま手にしたペンチを軽く左掌に打ち付けてみせる。
「制限時間はあと十五分、過ぎたらまず右手の指の爪を剥ぐ。次の十分で左手、その後は五分ごとに爪剥いだところに鋲を打っていく。またきれいな爪が生えてくるようになるかは分からん」
 汗が額を伝った。無意識に拭おうとし、腕の拘束のきつい抵抗が食い込む。僕の表情を見て、反対に男は最初のチンピラじみた笑みを浮かべる。
「制限時間はあと十四分五十秒だ、頑張れ」
 そう言うと男は背もたれの上で組んだ腕に顔を埋め、動かなくなった。その指がきつく握っているペンチに嫌でも目が行く。部屋の静寂を、どこか遠くの喧噪と救急車のサイレンと軽い破裂音が際立たせる。汗で背中にシャツが貼りついている。祭りか、と思う。窓のレースカーテンを引けば、午後の空に煙の花がぽつぽつとはじけるのが見えたかもしれない。グラスが汗をかいてテーブルに小さな水溜まりができている。春祭りは毎年ぼくの誕生日に開かれて、決して行ってはならなかった。あれは邪教の祭典だった。悠久の時を越えたアンモナイトは無情に狂いなく時を刻み続けている。
 喉が渇いたな、と僕は思う。
 
 ※この後も時計は寸分たがわず一秒を刻み続け、十五分が経過し、ちょうど正確なタイミングでアロハシャツの男が目を開ける。何か言って苦笑する。天井に設置されたカメラでは画素が粗すぎて口の動きを読めない。従業員の男はソファの背越しに頭頂が見えるだけで、何か話しているのだろうということしか分からない。部屋に設置されていた盗聴器は、目と歯のもの併せて十七あったが、全てが破壊されている。無音の会話は映像にして二分ほど続く。それからアロハが立ち上がり、画面を斜めに大きなノイズが裂き、そこから先のデータは破損している。
 間三秒だけ吹き荒れるまま停止した砂嵐のようなピクセルの向こうで、アロハの男が懐から銃を抜き取りそのままごく自然に、従業員の男の額に突きつける。
 ソファの背の上に覗く頭頂がゆれ、彼が顔を上げて真向からアロハを見上げたことが、一瞬映る。その確信を持つよりはやく、再び砂嵐が襲い来て、雪崩となり、四角い画面の世界全てを押し流す。


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