美しいということ-魔女の素敵な街

雲木りら




 トタン屋根を叩く雨の音が僕の耳に響いた。とんとん、たんたん、ととたんたん。空は素晴らしい音楽をお持ちのようだ。音楽も芸術の一つであるからね、優れた同業者には敬意を払いましょう。さて、僕は僕の仕事をしましょうか。仕事なんて言うから、憂鬱さが出てくるのかしら。それではお役目。僕のお役目を果たすために、そろそろこの橙色の布の温もりから離れてアトリエに参ります。
 アトリエと言っても、僕の家には一つしか部屋がないので、うちの中で東の端っこから西の端っこに移動するだけなんですけれどね。右左で言うんじゃなくて東西で表すことで広いおうちに住んでいる気がしてきます。言葉って大切。小説家と言うやつも、やはり芸術家に当たるのでしょうね。角度は違えども、尊敬の念は矢張りございます。美しい言葉を扱う人間というものは、きっと美しい心を持っている。つまり美しい芸術を持っているものは、美しい心を持っているということです。果たして僕は美しい心を持っているでしょうか。自分が美しいかどうかというものは自分では判別できないと言いますが、自分の心が美しいとは、僕には到底思えないのでした。
 座ると苦しそうに音を立てる椅子に腰掛ける。いつも申し訳ない気持ちになります。ずっとお世話になっている、小さな椅子。乱暴には扱わず、可愛がっているつもりなのですが年齢には勝てないものなのでしょうね。彼が壊れてしまったらどうしよう。僕は絵を描き続けることができるのかしら。もしかしたらそこで、大事なものがぷっつり切れてしまうかも知れません。それくらい、この椅子は僕を支えてくれているのです。
 雨降りの日は、少し冷えます。深緑の布を膝にかけて、ガラスの向こうの空を見上げた。灰色。あの色が冷たくて嫌いだという声も聞きますが、僕はあの色をどうしても嫌いになれない。いつもの眩しく光っているお日様を、隠してしまう色だけれど、冷たく厳しくはないように感じます。むしろどおんとした佇まいで、広い心で静かに我々を見守っているとすら感じるのです。
 ゆっくり、キャンバスと目を合わせる。四角いキャンバスの中に四角い建物を描いていく。きれいな四角の建物というやつは、味気ないとか冷たいとか思われがちなものですが、あれだって誰かの子供なのです。大事に大事に考えられて、大事に大事に造られたものなのです。それを描かせていただくのだから、やはり僕の魂を込めて向き合わなければならんでしょう。
 ただ筆がキャンバスの上をすべる音に耳を傾ける。この街は本当に美しくて、僕が果たしてそれを表現しきれるだろうかと自信が持てなくなることもあります。
 ふと、キャンバスの中の大きな空白に目が向いた。ここは、海です。この街の象徴である、海。海は街の守護者であると思うのです。日の光と共に輝き、月の光と共にきらめくこの海が、僕はとても好きなのでした。
 だと言うのに、僕は海をキャンバスの上に生み出せません。どうしても、気に入る色が出来ないのです。絵の具たちに罪はありませんが、この子らで出来ないのだから、仕方がない。新しい色を探しに行きましょうかね。
 ぎし、と音を立てて椅子から腰を離しクローゼットを開く。藍色の少しくたびれたコートを羽織り、赤紫色の鞄を肩にかけて、小さな傷の付いた焦げ茶の靴の紐を結ぶ。重いドアを開けて空を見上げた。いつの間にか雨は上がり、青空が広がっていた。虹を見逃してしまって、すこし寂しいですね。でも、お日様の下でお出かけが出来るのは行幸、行幸。鉄でできた階段で高い音をたてながらゆっくりと降りていく。久しぶりの遠出になるかもしれません。隣のパン屋さんでサンドイッチでも買っていこうかしらね。
 ***
 さっきまでの雨が嘘のように太陽の光が降り注いでいる。
「あら、こんにちは、兄さん。珍しくお出かけかい?」
 茶色のくせっ毛をふわりと揺らして、ミカコさんが明るく笑った。
「はい、絵の具を探しに。」
 ミカコさんは僕が一番話す人です。こうして一言二言話すだけですが、彼女の声は程よく大きく程よく高く、聴いていて気分が明るくなるのです。
「今日はたまごサンドがオススメだよ。いい卵が手に入ったもんでね。」
 箱の中できらめく黄色をしばらく見つめて、ミカコさんの助言に従うことにする。お昼ご飯が楽しみになりました。
 家の近くの地面はアスファルトでなくて石畳で覆われている。茶色っぽい石、真っ黒い石、くすんだぶちの石。一つ一つの人生、いや石生を想いながら革靴と石がたてる軽快な音に耳をすませた。さっきの雨で少し濡れているからか、少し柔らかい音がします。柔らかい音をたてる石。なんて素敵なんでしょう。やっぱり今日外に出かけてきて正解でしたね。
 ***
 三つ編みの少女がショートヘアの友達と笑い声を輝かせている。様子を見るに駄菓子のクジの引きが良かったらしい。子供の笑顔と言うものは本当に癒されるものですね。僕は子供の扱いが苦手でつい距離をとってしまいがちですがそれでもつられて笑顔になってしまう。あの子らが素敵な娘さんに成長し幸せになることを願いましょう。
 一人でじっと絵を描いていると声をあげて笑うことは少なくなっていくのです。外に来た時くらい楽しく明るく笑顔を浮かべて歩こうと思います。笑う門には福来る、と申しますしね。
 この街は本当に素敵です。窓から展望する海に囲まれていた街並みも良いけれど実際に街を歩くとかわいらしかったり格好よかったり思わず目が吸い寄せられる店が多い。品物だけでなくお店に魅力を感じるだなんて面白い場所です。
 丸めた髪に赤い木の実のような簪を差しているおばあさんの駄菓子屋を通り過ぎ、気難しいようでいて柔らかい匂いを纏っている古本屋さんをちろりと見て、今も履いている靴を買ったこじんまりした靴屋さんの右の路地にするりと身体を滑り込ませた。一日のうちすこししか陽の光の当たらないそこはまだすこし湿っていて、壁に絡みついている蔦の葉と土の匂いが辺り一面に漂っていた。石畳と靴のたてる音が壁とぶつかって響き渡る。しばらく歩を進めた先にあるのは、くすんだ赤い屋根の小さな店。キャラメル色のドアには蔦のような模様があしらわれており、鷹のドアノッカーがこちらを緑の瞳で睨んできた。丸い窓にはステンドグラスがはめ込まれている。日が当たる時間だけ見られる色とりどりの輝きに今日ははお目にかかれそうもないですね。
 木でできたノッカーでドアを叩くと、中から入室を促す声が聞こえた。
 金で塗られたドアノブを掴んで押すとすこし苦しげな音を立ててドアが開く。
「こんにちは、ルリコさん。」
 奥で何かを混ぜている女性に声をかけた。彼女は重そうな音で混ぜ棒を置いてこちらを見やる。おや、あれ、なかなかいい風情をしていますね。丁寧に手入れされているから錆びることなく光っていて、そして先っぽには何重にもなった色たち。長いことこの店で〝いろづくり〟を支えてきた鉄の棒。
「あぁ、来たのかい坊や。随分久しいね。さあ、今日は何をお求めで?白樺のパレット?それとも欅の柄に狐の尾の筆?馬の皮で作ったキャンバスなんてどうだい。」
 ルリコさんは小気味よく言葉を宙に放り出し、次々に商品を並べていく。どれもぴかぴかに磨かれていて、自分の魅力を僕に訴えかけてきます。みんな本当に素敵ですね。君達と一緒に芸術が出来たらどんなに素敵でしょうか。でも家で僕を待っていてくれている子らもいる事ですし、本日は新しい方をお迎えするのは御預けにしておくことにします。
「今日は新しい色を探しに来たんです。海の色、ありますか?」
 机の上に広げたものをいつの間にか元の戸棚に戻していた彼女は天井を見上げて腕を組む。
「ほう、海の色ね。どんな色をお探しだい?珊瑚の住むきらめく海?氷の浮かぶ冷たい海?しかしヒトってもんは海が好きだよねえ。全く海ってのは罪作りなもんだ。人を引き寄せるくせして気分屋なんだからさ、ほんと。」
 ルリコさんにつられるようにして周りを見回す。店の中にはところせましと物がひしめき合っている。ぜんぶルリコさんが見つけたり、作ったりしたものだ。血のような石がはめ込まれている手のひら程の大きさをした鍵、どこの国か検討もつかない言葉の刺繍が入った服、宇宙を閉じ込めたような時計、僕と同じくらいの背丈があるチェスの女王陛下、花模様が彫られている棚の中にはおおよそこの店でしか見ないような色を詰めた丸い瓶が並んでいる。
「この街の、海です。僕の部屋から見える海を描いているのだけれど、ぴったりくる色がみつからなくって。」
 この街の海。朝も昼も夜もただこの街と共に在る海。きらめく海、笑う海、怒る海、泣く海。それをどうにか僕の手で、きっと沢山の助けを借りることになるけれど、現してみたいのです。
「なるほどねえ、この街の海、か。そりゃ難しい話だ。近くのものほどよく分からない、ってよく言うさね。目を閉じたら頭の中にありありと見えるのに、それがどんな色か、って聞かれたら答えられない。ひとつ言えるのは、この街の海が一番あたしを強くひっぱるってことくらいかね。生まれた時から近くにあったってのもあるんだろうけどさ。あんたにとってもそうなんじゃないかい?ね、そうだろ。まあしかし、つまりあたしにはこの海を理解することもうまく落としこむことも出来ていないわけだ。だから海をつくる道具は置いてない。力になれなくて申し訳ないね。」
 人を引く海、なるほど、なるほど。けれどもたしかにあの海は人を引っ張ります。実際に今まで一所に留まることのなかった僕がこの街に長いこと居るのはあの海のなにか不思議な力によるものではないでしょうか。
「色を探すのも楽しみですからね、いろいろ行ってみます。」
 ルリコさんはきりりと口角を上げて、
「そうかい、ま、あんたらしいね。」
 と言った。
 ***
 昼の太陽に照らされて鈍色をきらめかせている時計の腹の中で黄金の鐘が十二時を告げた。いい色、いい音。腹の底から響くような、それでいて耳の上を軽やかに踊るような。ずっとこの街で時間を刻み続けているのでしょうね。そろそろお昼ご飯にしようかしら。陽の光を浴びて輝く白い噴水のふちに腰掛ける。日光に照らされてすこし暖かくなった赤紫色の鞄からミカコさんおすすめのたまごサンドを取り出す。氷を貰っておいて良かった。温まったサンドイッチなんて興ざめです。うん、よく冷えていてとても嬉しい。一口かじると程よい酸味と甘みが身体に染み入った。
 素晴らしいランチタイムを過ごさせてくれた噴水に小さくお礼を告げて、少し緩んだ靴紐を結び直し、立ち上がる。
 絵の具探しを再開しましょう。まあ、今日絶対に見つけなければいけないわけではないけれど。良い色に出会えなくても良い散歩をするだけで随分芸術に向かい合い疲れた心が浄化されるものです。真上に昇った太陽を見つめる。眩しい。急いでベンチの影の方を向くと瞳の中で紺色がくるくると踊った。ゆっくりと瞬きをすると次第に形が定まってくる。今日はどんな形になるかな。四角いような、丸いような。何かの生き物のような、道具のような。暫く紺色くんの表情を見つめたあと、大きく目を瞬いて顔を上げ、歩き始める。視界で紺色くんはぐるぐるぐるぐる動いている。次は市場に行こうかしらね。しばしのお供を連れて、出発です。
 ***
 紺色の最後の欠片が消えたころ、市場に辿り着いた。そこには溢れんばかりの人がいて、ざわめきでごった返していた。客になんとか自分の店の品を買ってもらおうと呼びかける人、久しぶりに知り合いに会って話に花を咲かせている人。沢山の人の中をゆったりと歩く。人混みが好きなわけではないけれど、たまにはこうして色々な人の空気に触れるのも良いものですね。一人一人に色があり、音があり、なにかの芸術を持っている。芸術とはなにもメロディーを奏でたり絵を描いたりするだけではないと思うのです。それらは人々がただ分かりやすい形にしているだけの物であるのです。自分の思う美しさを形にする、例えば昨日あった素敵なことを友達に話すのだって、芸術の一つではないかしら。
 寒さはすっかり姿を消して、でも暑すぎるということはなく、この季節は良いものです。人々の喧騒の中で涼やかな初夏の空気を大きく吸い込んで、何の気なしに辺りを見回したその時、美しい光が目の端に映った。美しいなんて陳腐な言葉で説明したくはないのですけれども、でも、でも。この光を表す正しいことばを僕はそれ以外に知りません。そう、これだ。これこそがずっと僕の探し求めていたものです。この街の象徴。この街を抱きしめているあの海そのもののような深緑の光が僕の目を穿いたのです。光に強く腕を強く引かれるように、惹かれるように、ただ走っていく。誰かにぶつかってもお構い無しに走っていく。さっきまで聞こえていた喧騒がどんどん遠ざかっていく。美しい光と僕しかいない世界を風になって駆けていく。そうして走った先に在ったのは、その光の根元に在ったのは、一つの石だった。けれども石、でいいのでしょうか。こんな光を放つものを石なんて俗な言葉で片付けてしまうのはどうにも心苦しい。じぃ、とそれを見つめる。それは透明感のある深緑をしていて、なにか僕の想像の至らないようなものであるような気さえしました。輝いている、と言うよりはきらめいていると言うにふさわしい光を放っていて、確かに先に僕の目を穿ったのはこれだとわかります。そして矢張り、海そのものの様で、僕が求めていたものそのものでありました。じっと見つめているうちにだんだん自分が海の底に居るような気がしてきます。あのきらめきのなかに吸い込まれてその暖かさに酔いしれているような、そんな気持ちです。
「おや?、オニイサン、そいつが気になんの?」
 少年の声ではっとその酔いが醒めて海の底からかえってくる。やっとの思いで石から目を動かして声の方を向くと、柔らかい土色の髪をした少年がにっこりとこちらに笑いかけていた。いつの間にか市場の食べ物を売っているところは通り過ぎて、耳飾りだとか時計だとか所謂雑貨品の並ぶ場所に来ていました。赤紫色の屋根の下で笑う少年の向こう側には分厚い丸メガネを掛けた妙齢の老人が座っている。今時あまり見ることの無くなった牛乳瓶の底のようなレンズの奥からじいとこちらの価値を計られている様でした。
「ええ、これは、売り物でしょうか。でしたら購入したいのですが、御値段はいくら程になりますか。」
 少年は目をぐい、と覗き込んできた。気後れして目を逸らしそうになりましたが、この色を何としても持ち帰りたいですからね。売る価値なし、と判断されては困ります。少し緊張しながらも少年の髪と同じ色の大きな目を見詰め返しました。
「そんなに緊張しないでいいよう、オニイサン。まずオレらが物を売りたくない人はこの店を見つけることすら出来ないさ。オレがちゃーんと、嫌なお客とかウチの商品に相応しくないお客は省くからね!アンタはそれに合格したから今ココにいるんだぜ。そんでもってウチの商品をホントに買えるか、いくらで買えるか決めるのはオレじゃなくて、じいちゃん。なぁ、どうだい?」
 少年は上体を捻って奥の老人に呼びかけた。アールグレイの長めの髪を後ろで縛った彼と目が合う。石とはまた違った強い力で引き寄せられる気がしました。そして、心の奥底を、覗かれました。比喩なんかではなく、本当に覗きこまれたのだと、断言できます。なんの誤魔化しも虚飾も彼のその瞳の前では無意味でありました。レンズの向こうで少し歪んで見える目の色が何色か認識出来ないのは何故なのでしょうか。肌の色は見えるのに彼の目の色がこれだとわからないのです。見えかけたら逃げていき、ぐるぐる回ってるみたいです。赤、黄、橙、緑、青、灰、輝、鈍。目で見ていては何も分からないのでありました。その時、随分前に誰かに教えてもらった言葉が不意に頭に浮かんできたのです。目の瞳で見えないことは心の瞳で見る、だとかなんとか。使い古された、その人以外の口から聞いたような、高尚なふりをしているだけの俗な言葉だとその時は思ったのですが、この老人の前では僕は俗な身分に他ならないのですから、背伸びせずに誰だか忘れた人から頂いた助言に従うのも一つの方法ではないでしょうかね。こころ。心の目で、見る。彼の目は、そう、彼の色は、
「やっと目が合ったな、青年。いや、本当にただの青年だろうかね、まあそんなことはどうだっていい。儂と目が合ったと、それが唯泰然たる事実だ。その石で海を創るんだろう?出来上がったら見せに来なさい。それがお代で結構。別に寄越せとは言わん。唯見せに来い。フチヤ、包んで渡して差しあげなさい。」
 元気に返事をしてフチヤと呼ばれた少年が山吹色の布に石を包んでいく。真っ赤な紐で括って、またにっこりと笑いかけながらそれを手渡してきた。
「そんじゃ、オニイサン、海創り、頑張ってねえ!」
 海から大きく潮風が吹き、目を開けていられなくなる。瞼をきつく閉じて、海の香りが鼻を刺していくのを感じた。瞼をゆっくり開くと同時に今までずっと聞こえなかった市場の喧騒がどっと返ってきて思わず何度か目を瞬く。辺りを見回すといつも通りの、市場の雑貨を売る場所で、前に向き直ってもそこには眠たそうに空いたスペースに寝そべる猫がいるだけだった。
 ***
 逸る気持ちを抑えるように、一段一段鉄の階段を踏みしめて上がっていく。うみ、うみ、海。靴を脱ぐ時間も惜しい。紐を引っ張って靴を揃えもせずに脱ぎ捨て、コートを投げ捨て、椅子に座る。彼の苦しそうな訴えで焦る自分の滑稽さに気が付きました。こんなに焦って、あの海を創ることはできません。
 カーテンをひらいて窓を開け、広がる海を見た。いつも通りきらめいていて、滑稽な僕を笑うことも無くただそこに海は在りました。なんだか楽しくなってきてくつくつと笑っている僕の前で海は橙色に輝いて今日の終わりを呼んでいるだけでした。焦らないでもそこに海はある。落ち着いて、その海を映していけばいいのです。簡単で、でも忘れがちなことを海はいつも教えてくれますね。
 いざ開くとなると心臓がやはり高鳴るものであります。少し震える指先で赤い紐を解き、綿で出来ているらしい布をゆっくりと開く。中に有る石を心を鎮めて眺めた。冷静になって見てもやはり海そのものの様であります。これは、翡翠、でしょうか。手に取ってみるとそれは暖かくて、石が暖かいだなんてそれは普通は有り得ない事なのだろうけど何故だかあまり不思議に思いませんでした。海が冷たいようで暖かいものなのは皆が知っていることです。
 その暖かさはじんわりと手のひらから全身に巡っていって、色々な濁ったものを溶かしているのを感じました。冷たいようで、暖かい。矛盾した言葉だけれども、これ以外に何とも言えないのだから仕方ありません。それはヒーターだとかの人工的な暖かさではなくて、僕の及び知らぬようなモノのつくり出す暖かさで、体だけでなく日々疲れを溜めていく頭や心までも暖めるのです。目を閉じてその暖かさに暫く身を任せていました。眠っているような、でも意識は完全に飛ぶわけではなくて。瞼の裏から光が差し込んだのでそっと目を開くと満月が煌々と輝いていた。海に映って自身の輝きをみんなに知らしめています。彼女だけの舞台で彼女だけの輝きを放っているその姿を見つめていると、手の中からさっきまでとは違う温もりを感じました。月に近づきたいのかしら。そっと月光に石を翳すと明らかに今までとは違う光を放ち始めます。そう、まさにその光は、月の光を浴びて輝く海そのものでありました。僕達の視線では捉えることの出来ない海と月の対話をこの石は知っているのだろう、と思います。虫も鳥も鳴かぬ夜に壮然と光る月と、海と、そしてこの石。今の僕はそれらを眺めるただの傍観者にほかなりませんでした。暖かくて輝いていて、その中で僕は少し微笑んで、ゆっくりと眠りの渦に落ちて行くのです。ひとりだけれど、ひとりぼっちじゃない。そんな眠りに。
 ***
 紫陽花の沢山植わった庭を眺める美しい母を、覚えている。
「かあさま。おかあさま。ぼくのおとうさまはどこにいるの。
「さあ、どこだろうね。わからない。ただ幸せだったらいいなあと、思うけれどね。
「おかあさまは、おとうさまがきらいだからおわかれすることになったんじゃないの。
「違うさ。私たちはちゃんと、愛し合ってる。それがただ、許されなかった、ってだけだ。
「どうして、ゆるされないの?そんなの、おかしいよ。いっしょにしあわせに、だって、だって。
「お前は、優しいな。ありがとう。お前が幸せになってくれたら、私はそれで充分、幸せなんだよ。
 
 紅葉の葉を拾い上げる美しい母を、覚えている。
「あんたにここは、狭すぎるんだ。そうだろ。
「いや、そんなことない、そんなことないんです。ぼくは、僕は此処に、
「いいかい、私はあんたに幸せになって欲しいんだ。別にそれが私のすぐ近くでなくても、いいんだよ。こんなところにいちゃ、息が詰まるだろ。あんたのその綺麗なものを映す瞳を、綺麗な音を聴く耳を、こんなところに閉じ込めて置きたくないんだ。それとも、外の世界に行くのは、嫌か?本当の気持ちを口にだしてごらん。
「......外を、外に在る綺麗なものを、みてみたいです。でも、母様を、一人にもしたくないんです。
「うん。そうか。
 そうやって優しく笑う母が、ただ美しかったのを、覚えている。
 ***
 部屋には石を削る低い音と僕の吐息だけが響いている。なんだか音楽のように思えて少し楽しいですね。石を削って、水に溶かす。まあそれだけではないけれど、大まかに言えばそんな風にして石から色を取り出すことができます。削ることでこの光が損なわれてしまったらどうしようかなんて悩んだりもしたのですけれども、そんな心配は無用でした。僕の手が加わった位で海の色の光は損なわれたりしないのです。さて、海は海でもどのような表情のものが出来上がるのでしょうか。本当に素晴らしいものを描くときは頭で考えて描くことなんてできるはずもないのでまだ僕にも分からないのです。
 石をただ削っていると、色々なことを考えます。自分の奥底と向き合う時間、というやつですね。絵を描いている時とはまた違う時間。この石と出会った日に満月の下で見た夢の事を想う。いつもはあまり見ない様な夢でした。母の夢。世界で一番うつくしいひと。家族への愛を差し引いたってあの人より美しい人に僕は会ったことがありません。母の事をただ美しいと言う言葉で片付けたくはないのですが、でも美しいと言う言葉は彼女のために生まれたのではないかとも思うのです。全てを包み込む優しさを持って、でも甘えを許してくれない母。今どうしているだろうか。弟や妹のことを風の便りで知りました。きっと彼らも母に似ているでしょうね。いつか会えるでしょうか。会ったこともない〝おとうさま〟に焦がれる僕なぞはその団欒には入れないやも知れません。それでも、家族ですもの、やはり会ってみたいと思います。
 ふと口を開けて気がつく。喉が乾きました。小さなキッチンに狭そうに立っている食器棚から気に入っている湯のみを取り出してお茶を入れます。基本洋風のこの家で異質なそんざいである、湯のみ。茶色と緑の混じったザラザラとした肌触りの湯のみを見ているとこれを僕にくれた人を思い出します。正確には人達、ですね。愉快で明るくて、強い人達だった。彼らは幸せになったのだろうか。
 ***
「なあ兄さん、絵描きって稼げるンか?あんた結構良いモン着てるけどサ、どうにも高い金を受け取ってる様子もないから実際どうなんだろうなァとずっと思ってるんだヨ。ちびっこ達に描いたもんタダ同然でやったりしてるだろ。あんた絵ェ上手だし、やっぱりよく売れるもんなンかね?」
 大きい体をした彼はこてんと首を傾げてこちらを見た。
「絵描きで稼げるかどうかってそりゃあね、僕の美しいと人の美しいが重なった時は絵が売れる、重ならなければ売れない、それだけです。わざわざお金なんぞのために自分の「美しい」を曲げようとは思いませんがね。」
 お気に入りのキセルを持つ手をとん、と火鉢のふちにあてて灰を落とす。赤みがかかった紫色が陽の光を浴びて鈍い輝きを放っている。どうにも分かりにくい言い方をしてしまったでしょうか。けれどもこれは僕の信条ですからこれ以外に言い様がないのです。この辺りの男性では珍しい大きく輝く目をぱちぱちと瞬いたあと彼は口角を大きく上げた。
「そうかア、そういうモンなのかねえ。でもさ、大抵のひとが美しい!って言うモンがあるだろ?そんな言い方するってこたァそういうのあんまり好きじゃねえってことなのかい?」
「ふふ、何事も一概には言えません。僕がみてる景色を君がみてるとは限らないんですよ。僕の言う赤と君の言う赤は違うかもしれません。僕の言う真っ直ぐと君の言うぐにゃぐにゃがおんなじかもしれません。だから、美しいってのは難しいんです。」
「ウーン、オレは学がねえからあんたの言ってることよくわかんねえや。しかし兄さん今日はいっぱい喋ってくれるな。いつもはあんまり話してくれねえから嬉しいや。」
「貴方が聞き上手なんですよ。僕はあまり話すのが得意な方ではありませんからね。こんな貴方と添い生きることのできるあの人が羨ましいンです。」
 彼のように嬉しい、という気持ちを顔中で表現できるひとはよく愛される人ですね。
 どうにも彼と話していると江戸っ子節が移ってしまいそうです。影響されやすい自分が嫌なようで、でも面白くもあります。
 鼻歌を歌いながらみかんを剥く彼を、暫くぼんやりと見つめていた。自分の中の毒気とか憂いとかそういうものが溶けていくように感じました。
 ***
 喉も潤い、石から色も取り出せまして、いよいよ海を創っていく段です。相棒である椅子に腰掛け、この街をみる。ただ目で見ると言うわけではありません。自分の全てを余すところなく見せてその代わりその本質とも言うべきところを覗かせていただきます。僕は絵が上手でないから、こうやって描くものをじっと見るしかないのです。美しいものを一から創り出せる人に、なりたいものですね。そういうひとは、その人そのものが、美しいのではないでしょうか。ああ本当に、僕自身が、うつくしく、なりたいなあ。
 こうして創るために色々なことを考えていると創る、とは一体何なのかと考えることがあります。僕の今の創るということへの解釈は美しいものを追い求めるということであるのですが、本当にそれで合っているのでしょうか。この問に答えは永遠に訪れないような気さえしますが、それでもずっと考えるのでした。
 ルリコさんから随分前に買った筆を取り出す。出会って最初は栗色だった毛先は沢山の色に染まっている。石だった色を拾い上げて、キャンバスに海を届けていく。こうやって絵を描く準備をしているといつも一枚の絵を思い出します。
 ただ猫が一匹眠そうに座っている絵なのですが、あれは、素晴らしい経験をしたという他ないのです。衝撃を受けた、とか言うのではないのです。ただこの絵だけを見つめていたいと、この絵があれば食事なぞ無くても良いと本気であの時思ったのだもの。僕の稚拙な言葉で説明してしまうなんて恥ずかしくてとてもではないが出来ません。あの絵は、素晴らしかった。あそこに住んで、毎日絵を眺めて過ごしたい。その時間は、どんな時より素敵なものでありましょう。いつかあんな風な絵を描いてみたいと心の底からそう思います。
 ただただ、海を眺めることと海を創ることだけを繰り返す。海の底に行けたらと思う時もあるけれどこの美しさは陸上でしか見られません。海の底とはまた違うこれを僕は心から愛しているのでした。愛とは酷く曖昧なものであり、まだ我々の及ばぬものでありますが、もしかしたらこういうものなのかも知れません。未熟な僕にはまだよく分からないけれど、でも海が教えてくれたこの気持ちを忘れたくないと心底思うのです。母なる海とはよく言ったものですね。
 僕の心も、視界も、全て海の中で溺れているようで、どこか息苦しいような気さえしてきて、でもそのままひたすらに海を創り続けます。自分の全てをぶつけなければ海は此方を向いてもくれない。
 嗚呼、ほんとうに。あなたは。
 ***
 絵をじつと見る老人を横目に少年が質問を投げかけてきた。
「あんたなんでさ、そんなに芸術に拘ってるわけ。美しいものを追い求めて、その先になにがあるのさ。」
 ずっと近くにある美しいものを超えなければ、何も自分というものが見つけられないから。自分の言葉で話したいのです。自分の感覚を持ちたいのです。それより美しいものを創ることで、それが叶うと、思うのです。
「その先に何があるのか、見たいんです。」
 遠くで鷹の鳴き声がした。空は透き通るような蒼色で、海とささやきあっている。





















魔女の素敵な街
雲木りら

 ルリコさんの朝は早い。
 まだ日も登りきっていない朝、目覚ましの合図もなしに毎日同じ時間ぱちりと目を開けるのだ。けれどもすぐには起き上がらない。天井の模様と朝のおしゃべりがあるからだ。まだ声を出すタイミングではない。特におはようだとか、そういうおしゃべりではない。なんとなく、向き合う時間なのである。
 外から鶏のあいさつが一声聞こえると、そろそろ起きあげる時間。カーテンを開けて、昨日出してきたふわふわのスリッパを履いて、窓辺に座る。眠気が朝の冷たい空気でさめていくのが心地よい。
 ルリコさんの寝室はお店の二階にあって、窓を開けると表通りの川が元気に流れる音がすこし聞こえる。
 彼女はステンドグラスを愛しているが、寝室の窓ガラスだけは色の付いていない硝子をはめてある。薄らと彫りが入っているその窓硝子は、毎朝のこの時間を共にしているのであった。
 路地の奥を守っているルリコさんの店からは表通りの音はこうして窓を開け、耳をすませていないとあまり聞こえない。
 蹄の音が聞こえる。早くに出立する旅人だろうか。それとも朝の配達だろうか。
 今日は鳥たちがさえずる声が多いように思われた。なにかあるのだろうか。それとも、なにもないのだろうか。なんにせよ彼らの声から怒りや悲しみは感じられなかった。いつだってそうだ。彼らに怒りや悲しみがないのか、それともこちらが感じ取れないのかは分からないのだけれど。
 ゆっくり、ひとつまばたきをして、ルリコさんは立ち上がった。窓は開けたままにしておく。先月水色と白のタイルを貼った洗面所は、なかなか、いいかんじ。ていねいに一枚一枚貼ったから、いいかんじになったのかもね。蛇口のひねりが四本突起なのも、大事なこだわり。回すと小気味よく高い音をだして、かわいらしいものである。
 ていねいに作った場所で、ていねいに顔を洗うことが一日を上手くやっていくコツだとルリコさんは思っている。お気に入りのタオルも忘れずに。
 ***
 寝室に戻ってきたルリコさんは、椅子の背に手をかけ背伸びして、窓から空を覗いてみる。ふわふわの薄墨色の空。うん、いい天気。おひさまが輝く日だけがいい天気というワケではないのである。まだ雨の匂いはしない。雨が降ったらお出かけにしようかな。
 くぅ、と小さくルリコさんのお腹が鳴いた。これは朝ごはんの準備を始めますよ、という意味。
 
 焦げ茶色の柄の包丁で昨日の蒸し野菜サラダに使った人参とじゃがいもを切って、小さなフライパンでそれを軽く焼いておく。買った時に切っておいた食パンの上にトマトソースをかけて、その人参とじゃがいもを乗せて、その上にはチーズを散らす。
 あら、これではみどりいろが足りないかもしれないね。ピザといったらやっぱり定番はピーマンでしょう。冷蔵庫を開けると、よかった、ありました。細めに切って適当な量を適当に載せる。料理の上手い人ってのはこの適当が上手いものです。ルリコさんの適当の腕前やいかに。うーん、こないだよりはよくなってるわ。
 ウインナーかベーコンかは迷いどころ。今日の気分はそうだね、パキッとしたのが欲しいところである。使いかけの袋があったはず。ウインナーを小さめに切ってさっきのに載せたらトーストに入れて、時間はまあ、三分でいいだろう。このトマトソースは、ラベルに描いてあるトマトがどうにもかわいらしくってつい買ってしまったものだ。旅先でトマトソース、なんだか乙な買い物ではないか。味が今まで使っているものと違っていたかどうかは分からない。食べ物はルリコさんの専門外である。食事というものは食べた時になんだか幸せになったら、それで完璧なのだ。
 
 今日はどのお皿を使おうか。こちらはルリコさんの専門である。
 ムラのない焦げ茶の食器棚の飾彫りをなぞりながら、今日のお供をしてくれる素敵なお皿について考える。
 ふと目があった。二段目の隅にいらっしゃる緑がアクセントのお皿。今日はあなたにしようかしら。食器棚の扉がひとりでに開いてしまわないよう守っている梟には一旦横を向いてもらって、硝子をあける。ぶつかったりこすれたりしないよう慎重に。お皿とお皿のたてる音はあまりよろしくない音だとルリコさんは考えている。
 取り出したお皿は、白、ではなくクリーム色が基調になっているものである。ピザトーストの日のお皿はあんまり色とりどりでも騒々しいからね。緑のつたもようもしつこくないのがよろしい。あくまでも主役はピザトーストであって、お皿じゃない。この子はそれをよく分かってらっしゃる。だから今日は、あなたなのよね。
 
 食事の後片付けを済ませ、ほっと息を着くと雑然とした音が外で響いているのに気がついた。
 雨だ。石畳を叩く雨音は少しくぐもっていて、軽快とはいえない。路地裏にぽつんとひとつ店を構えているルリコさんが良い雨の音を聞くためには、お出かけが必須なのである。
 樫でできた傘の柄は、特に模様の彫られていないシンプルなものだ。木を感じ、話しながら散歩できるものがいい。赤のサテン生地でできた傘をばさっと開く。ボタン式が最初に出た時は''傘愛好家''のみなさんは非難轟々だったわけだが、まあたしかに手で押し開く方が風情はあるとルリコさんも思っていた、片手が塞がっていても開けるボタン式は偉大な発明である。傘は散歩のお供であって主役ではないというのがルリコさんの考えなのだ。
 扉を守る鷹に指先でついと触れて、留守の間をお願いする。深い緑色の目から了解の意を読み取ってにこりと笑ったルリコさんは留守のお知らせを扉に立てかけておいた。
 キャラメル色の扉は、異国の地で出会い一目惚れして連れ帰ってきた木で作られたものだ。丸いステンドグラスにうっすら映るルリコさんの帽子はなかなかもって良い感じ。先日のいい買い物である。
 壁に這っている蔦におはようの挨拶を済ませ、路地を進む。
 表通り。
 すぐ右手には懇意にしている靴屋がある。雨の日は外で接客する革靴がいなくって少し寂しいね。中に座っている店主に軽く会釈をして道を進む。古本屋や雑貨屋、古着屋に駄菓子屋。ここの通りにたまたま迷い込んだ旅人はなんて素敵な場所だろうとため息を着くものだが、素敵とはそう易しいものではない。
 素敵とは人の思いが詰まっているものだ。思いとはつまり想いであり、愛であり呪いだ。それだけじゃなく、言葉にあらわせないいろんなモノで素敵はできている。軽く触れるだけならだれにでも優しい顔をする素敵が時には毒になりうるということをルリコさんはよく知っていた。芸術家なんてのは素敵に囚われているものたちだけれども、みんな素敵が優しいだけじゃないってよくよく存じているのである。素敵と陳腐を離そうとすればするほど、沼に嵌っていく。そういう風にできているのだ。
 想いから力は生まれ、想いに力は呑まれていく。想いって言葉を簡単に使うのはよくないってこないだ芸術家の彼に言われたっけ。
 美しいというものに囚われている彼。彼だけでは無い。芸術家というのはみんな囚われてる。特によい芸術家と言われている人たちはみんな。そして彼らの作品もまた、深いふかい沼への手招きにほかならないのだ。
 ふと立ち止まる。なにかに呼ばれたように思った。そちらを見ると、丸い細ぶちの、眼鏡。あしらわれた蔦がお店の扉のものと似ているみたいだ。今日の散歩はどうやらあなたに会うためだったみたいだね。
  
 雨が止んだころ、お店の扉を開くと、たくさんの''素敵''に迎えられる。ルリコさんが自分の目で、手で、耳で集めてきたものだ。なんのためにこの店をやっているのかとある日旅人に聞かれたことがある。採算が取れているようには思えない、と。
 ばかなことを聞くものだ。素敵と向かい合ってるやつに採算なんて考えているものはいない。お金とは必要なのに煩雑で、みるだけでうんざりさせるものだ。外国のお金に素敵を感じるのはそこに普段使っているお金と同じように価値をイメージしにくいからだ。価値と素敵は裏返しどころかねじれの位置にいるものなのである。
 
 からんころん、と小気味よく扉のベルが鳴る。おやまあ、美しいの彼。
 「こないだぶりだね、どうだい、海の首尾は?」
 「いいものと出会えたので順調ですよ。ですから絵の具が減ってしまって。こないだのねずみ色の子はまだ居ますかね?」
 「そう言われる気がしてたんだよ。準備してある。ちょっとおまち。」
 「さすがルリコさんですね。」
 「まあね」
 口の端をきりりと上げ、ルリコさんは素敵な棚に手を
伸ばした。


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