チェイン/アンチェイン

ハクスイ



 私は、とある新聞の記者をやっている。
「こんな寂れたところに来るなんて、お前も物好きなやつだな」
「住んでいるあなたもそうでは...っ、いてて」
 時代は18世紀の初めごろだ。私はある男の元を訪れて今......椅子に座って、現在進行形で拘束具を付けられている。薄暗い部屋で、私が申し出てのことだけれど別にそんな趣味ということではなく、あくまで私とこの男双方の仕事のためだ。
「きついか。だが、目的を考えるとさらに強く......それと、この場所は変えられねぇし、変えたくねぇんだよ」
「そうですか」
 ここは彼の仕事場であるらしい。部屋を見渡すと周囲の壁には仕事道具らしい工具がかけられ、奥にはそれぞれ別の拘束具をつけられたマネキンが並べられていた。確実に対象を縛るものでありながら、どこか芸術性を感じさせるデザイン。私を縛るものも、いくつものパーツがかみ合わされた不思議なものだった。その一つひとつを記憶に残しながら、私のほうからも尋ねる。
「以前までの品と比べても、ここにある品は素晴らしいものになっているようですね」
「あぁ、素人目にも分かるくれぇには俺も改良を重ねてたからな。そりゃあ変わってるだろうよ」
 彼はかつて一流の拘束具師として知られ、数年前に出された最後の作品でもいまもなお超えることができない逸品として語られていた。機能美と芸術美を兼ね備えた品は、個人の好事家から警察での犯人補足、裏社会での拷問用にと幅広くブランドのような扱いを受けていた。実戦で使えるといわれるほどのものもあり、極めた技術はそこまで行くんだと事前に調べていた時はとても驚かされた。突然業界から消え消息を絶った彼がいるというだけで、ここに来る価値はあったというものだ。
「笑えるぜ、あんな品で名工なんて呼ばれてたなんてよぉ」
 それでも彼は、その時の出来には満足していないよう
だった。だがそうだろう。かつての拘束具との差が、私
でもわかるというのは事実だ。
 これも"彼女"の影響があるのだろうか。
「ところでよ、あんたはなんで頼んでもいねぇ拘束具のテスターなんて申し出たんだ?取材の交渉より先によ」
 質問が飛んできたことで、頭の中に回していた意識を外に戻す。幸い手元の作業に意識を向けていて、考え込んでいた私の様子には気づいていないようだった。
(そろそろ、いいかな......?)
「そうですね、話を聞かせてもらうなら、こうしたほうがいいと思ったからですよ」
「記者の経験則ってやつか」
「ええ、そんなところですね。取材になるのが一つ、仕事の手伝いを提供できたらというのが一つです」
「まぁ、ほかのことに時間は割きたくねぇからな。お前の考えはあってたと思うぜ?」
 拘束具を調整する彼の態度が、幾分か柔らかくなってきたと感じた私は、一つ踏み込むことにした。
「そしてもう一つが、信用してもらってある少女について話を聞くためです」
 その一言を出した途端、男はピクリと手を止め......直後、私への拘束の強さが数段上がった。
「がはっ」
「誰からそれを聞いた?要件はなんだ?あいつに手を出す気ならここで拘束具の耐久テストに使うが。あぁ、返答なんざ聞かずにそうしたほうがいいか、なっ!」
 美しさを備えた拘束具が、その本質を見せて襲い掛かってくる。胴体にまかれていたものに加えて、両足、首にまでも新たな拘束具が瞬時につけられ、より自由を奪っていった。
 男の様子も、まさに豹変といった感じだった。感情の激しい人物だとは聞いていたが、ここまで変わるとは。
 パニックになってはだめだ。唯一自由な口を必死で動かし、言葉を続ける。
「っ、私も以前彼女に会ったことがあるんです!だから、お話を交換できたらって!」
 男の手が、再び止まった。鋭いプロの視線がこちらに
向けられる。しかし私もプロだ。やましいことなどない
 と、目線で返す。
 しばらく沈黙の見つめあいが続き...男のほうがはぁーと息を吐いた。
「その少女ってのは、黒髪のガキのことか?」
「はい。茶の入った、黒目の子です。
「なるほどな、事実らしい。それなら、聞く価値はあるな」
 拘束が少し緩み、私は息を吸い込めた。
「信用はまだできねぇ。拘束具はそのままにさせてもらうぜ。代わりにだが......話すのは俺からにしてやろう」
「ありがとうございます」
(よかった、ここに来た目的が達せられそうで)
 心の中で安堵する私と向かい合うように、彼は椅子に腰かけ、
「ただ逃げるってんなら、分かるな?」
 がチリと、背後でただならぬ音がした。巨大なトラばさみが閉じるような、そんな感じの音だ。何をしたのかはわからないが、再び背筋が凍るような感覚。
 だが、覚悟はすでに決まっている。こんなものではひるまないと目線を向け続けた。
「いいだろう。それならとっととはじめて終えようぜ、あいつが帰ってくる前にな」
 "彼女"に聞かせたくないからだろうか。少しばつの悪そうな顔をしながら、彼は語り始めた。
「じゃあ話してやる。俺にとって、最も大切なあいつについて___



 知ってたみてぇだが、俺はこの分野では名工なんて呼ばれ方して、俺もそう認識していた。狭い世界だとしても、だれにも負けねぇ逸品を作ろうと仕事に誇りを持っていた。ただ、そいつは拘束具の出来だけで誰がどこで使うか、んなもんに興味はさらさらなくってよ。使われる道具に罪はないって、どこの組織にも買いたいやつがいれば売り払ってきた。まぁ、どこにも肩入れしねぇってことで、表からも裏からも触れらくなっちまったのはついてたな。
 そうして稼いでた俺だが、代わり映えしないのにはちょっと歯がゆさもあった。張り合いがなくなってきたっていうのか?そんなとき仕事場、つまりはここに帰ると入ってきてるやつがいるって痕跡があった。売る相手を選ばないからこそ、俺を狙ってくるような奴もいた。それに備える警戒心はあったからよ、侵入者向けの拘束具をトラップ気味につけてたのさ。それが、外れてころがっていやがった。
 人を捕らえてこその拘束具。そう俺は考えてっし、それを作ることに誇りがある。俺の拘束具は、言ってみりゃあ人に絡まる知恵の輪みたいなやつさ。解き方は用意してある。だが、不自由を押し付けたうえで解かせないようにする俺の拘束具を試せば、とらえられない奴なんていない。そんな自負をいくらかおられて最大限の警戒はしたが、どこか妙に感じてる俺がいた。知りたい欲求が上回って進み始めると、確かに使われ、そして解除された拘束具は途切れなかった。
(こんなにひっかかって、なぜまだ進む?なぜ避けない?素人にしてプロ、そんなイメージだな。あるいは天才か。潜入の素人で、拘束具に関しては天才的。だが、拘束具に関して俺以上の奴なんていなかったはずだぜ......)
 自分が焦ってるのにまったく気づけねぇまま、一番奥の部屋に入るドアまで来て......俺はあいつと初めて対面した。
 どこにでもいるような、細身で短髪のガキだった。とはいえ拘束具師の仕事場なんてこんな場所にはいねぇだろう。床にうずくまったあいつは、ただじっと俺のほうを見ていた。
「ガキ、おまえがあれを全部やったのか?」
 後方にちらばった拘束具を親指で刺すと、小さくうなずいてやがった。
「ひとりで、か?」
 うなづく。
「誰かに命じられてなのか?」
 首を横に振る。
「なんで、ここにいやがる」
「...ここから、は」
 俺の疑問に首の動きだけで答えてたあいつは、そこで初めて口を開いた。
「ここから先には、怪我しそうなのがある気がしたから」
 求めてる理由じゃぁなかったが、あいつの言ってることは確かだった。そのときにゃあ部屋に侵入者を入れないよう、骨の数本は折るような拘束具を仕込んでたからな。
(天性の勘ってやつか)
 ほしい。俺自身も驚くくれぇ自然に、そう思った。ここまで拘束具を解く才能があるなんてのは貴重なサンプルだ。より俺を高めるためにこいつで試したい......そう強く思った。裏社会にも片足突っ込んでるとはいえ、人が欲しいなんつう今までなかった考えにどうかしてると思いつつ、脅してでもとどめようとしたんだが......申し出てきたのはあいつのほうからだった。
「私をさ、助けてくれない?」
「......言っとくが、ここは俺の仕事場でどの仕掛けも俺がつけたんだぜ?とらえようとした奴に助けてなんて、命乞いかよ」
「命乞いじゃなくて、匿ってほしいの。それに、つかまりに行ったのは私が悪いから」
  正気を疑ったぜ。こんな俺のところに留まろうなんてよ。しかもそれは、俺に取っちゃあ都合がよかった。考えて、あいつの避けてた扉のトラップを外して、仕事部屋の中を見せた。
「こんな趣味の悪い部屋をみてもか?俺は拘束具師だ。とらえることに人生をかけてるようなやつだぜ。お前がかかったやつを仕掛けたのも、とらえる相手が欲しいだけさ。とっとと消えたほうが身のためだ」
「大丈夫だよ。あなたは殺そうとまではしなかったし、怪我もさせないようにしてくれた。それに、私抜けれたでしょ?とらえたくなることに関しては心配してないわ」
 自分でも何を言ってるんだとも思ったセリフだったが、あいつは受け入れやがった。俺が出してやった逃げ道を、さっさと自分で避けやがったんだ。俺も、俺の望みを折らずにいることしか選べなかった。
「......俺の拘束具、その改良に付き合ってこれる間は、ここにおいてやる。いらなくなったら、どっか遠くへ送ってやるよ。これでいいか?」
「うん。ありがとうおじさん」
「せいぜいたのむぜ、ガキ」
 んなことで、あいつとの奇妙なつながりができちまったってわけだ。


 長くて悪かったな。だが、そんだけ印象に残ってんだ。あいつと出会った日のことはよ。
 それからはあっというまさ。あいつに起こされて飯作って、食べて作業して、飯の時また来やがって。それでできた拘束具を、あいつに試す。出られちまったら、また新しいのを作るためにっつう繰り返しさ。だが、そんな二人暮らしが、俺には一番幸せに感じるんだよ。ほとんど外にも出ねぇ、表に出すにはまだ誇れないっつう言い訳をして、実際ん所あいつといてぇって気持ちが強かった。研究とあいつに付き合う時間、それだけあればよくなっちまったんだよ俺は。
 改良を手伝わせるようになってからも、あいつは相変わらず天才的だった。万人向けのから抜け出す力に特化したもの、複雑さを極めたもの、あいつ自身の体格に合わせた一点物の拘束具でもさっさと抜け出してきやがった。体の柔らかさや頭の柔らかさが異常なんだろうな。時には俺が想定してた以上の抜け方をしやがって、手品ってより魔法って言われたほうがしっくりくるぜあれはよ。いつまでたっても追いつけねえ。だが、必ず超えるっていい壁になったぜ。
 あぁ、匿う相手についても早めに聞きだしたな。あいつは昔俺が拘束具を売ったどこぞの教団にとらわれて、儀式で生贄にささげられる直前だったらしい。どうやらそこでも、俺の拘束具を使われて...抜け出した後に何の因果か、俺のもとまで来れたらしい。
「お前を縛ってたもののうちの、一つなんだぜ?俺のところにいていいのかよ」
 そん時は酔ってたせいか、つい俺は聞いちまった。酒を片手に作業も続けてた俺に、あいつは
「あそこは窮屈で、苦しかった。でも、あなたの拘束具は捕まえても傷つけてこないのが分かった。それに私に解いて自由になっていいって教えてくれたの。だから、おじさんのことは嫌いになんかならないよ」
 笑みをうかべてそう言われちまえば、安心するほかなかった。だからせめて、守ってやりてぇと全力を尽くした。ここのトラップを厚くして、あいつを外から守るように組んだ。あいつがいた教団は、俺が調べたときには消えかかっていやがったが、才能が知られちまえば別の奴に狙われかねんと警戒は続けた。それと同時に、話を聞いて以来俺は拘束具を取引をする気もなくなっていってな。今更だが、あいつに悪いって思いがそうさせちまったんだろう。
 そんな日常が続いて、ある日俺が必要なものを買い出しにいって帰って。
 あいつは、家から消えていやがった。



 そこまで語ったところで、耐えきれなくなったかのようにしばらくの沈黙が続いた。言葉をはさむ余地がないほど思い出に沈んでいた彼が、こちらに戻ってきたのが分かる。
「それが、あいつが来て半年たったかたたないかってところだな」
「あなたの拘束具が市場に出なくなったのが三年ほど前で、別れたのがそれから半年......つまり、それから今に至るあいだまで、ずっと彼女と離れていたままなんですね」
「あぁ、そうだよ」
 返事から一拍おき、男は関を切ったように激しく言葉を紡いだ。
「消えたとわかった日には、一晩中あいつを探しながら後悔した!俺の中でのあいつの大きさが、どれほど大きいかわからされた!出会った日と同じように、設置してた全部の拘束具が使われて、きれいに解かれたたまま残っていた。あいつにしかできない芸当さ。あいつに試して、少しずつ改良してたやつに加えて怪我しかねないって避けてたやつらすら完璧にぬけられて!ははっ、俺の成長なんてあいつの才にゃあ及ばないってことを見せられた気分さ。だが、何よりあいつが自分で去ろうとした理由をその時に察しちまったのさ。俺とだけの生活、家に仕掛けた侵入者用の罠の数々、それを全部あいつは拘束だとみなしてぬけていったんだってよ!」
 ひとしきり語り、息を荒くしている。気分はまだ、高ぶったままのようだった。少し呼吸が整うと、彼は改めて口を開いた。
「俺たちの作業場にようやく帰ってきたとき、メモ書きが1枚あった。あぁ、出かけてくる、また戻ってきたら捕まえてねっつうほんの少しの言葉だけを残してたんだぜ、あいつは。だが、そう言われちまったら待つしかねぇ。傑作を作って、次こそはあいつを満足させる。もし抜けられたとしても、あいつと一緒に必ず完成させる。だからよ、どこまで行っても俺の拘束具は完成とはいえねぇ。あいつに試して、とらえきれたときはじめて、俺の拘束具は完成するんだ。それまで、作り続けなくちゃぁいけねぇ......」
 私はまだ、拘束具にとらわれたままだ。だが、そんな状況の私からでも語り終わった彼はどうしようもないくらいに小さく見えていた。
「なぁ、あんたはいつあいつと会ったんだ?」
 すがるようなまなざしに、わたしも向き合い答えるべきだと気を持ち直す。
「あなたが彼女と別れてから...ですね。私があなたのことを知ったのは、彼女にあなたの話を聞いたからなんです。記事のネタの一つとして、あなたのことを教えてもらって......その時に、あなたに彼女自身のことを聞いてみてと勧められました。半信半疑で、その時は聞き流していたのですが......ふと思い出して調べると、あなたが実在していたのです。そしてそのことを知った時、彼女からの言伝を預かっていたのを思い出したのです」
「っ、そいつは......?」
 彼の反応に、もっと速めに伝えに来るべきだったなと残念に思わずにはいられなかった。
「どうか、元気なままいておいてね、と。そう伝えてねと言われました」
「そうか、あいつが......」
 たった一言、それが彼にとっては一番大きかったのだろう。その後しばらくの間の彼は、私の頭の中にとどめておく。
 しばらくした後、彼に拘束具を外してもらい外まで案内してもらった。気を付けなければ、あの少女でもないと抜け出せないような拘束具が襲い掛かってくると思うと、和解できたとは終え最後まで気は抜けない帰り道だったが。
「あなたと話したことは、だれにも話しません。あなたにお話しできたことは少なかったですが、もし彼女にまた会えたその時は、必ずあなたにお伝えします。広く世界を回って情報を集めること、そして伝えるのが、記者の仕事ですから」
「ありがとな。俺も、また取材に協力してやってもいい。だから、あいつに会ったときはよぉ...よろしく頼むぜ」
「こちらこそ、取材させていただきありがとうございました」
 私たちは強く手を握り合い、別れを告げた。


 今日のことについてペンを走らせながら、私の頭はそれにもまして別のことで埋め尽くされていった。
(......素晴らしい。今回も、やはり彼女に聞いたとおりだった!)
 彼女に会った時、話されたのは拘束具師の男のことだけではなかった。2年ほど前に私のもとを訪れたとき、彼女は出会い、関わってきた人々あるいは組織について、つらつらと語っていたのだ。彼のもとに来るのが遅れたのも、ほかの人についても同様に調べて会いに回っていたからであった。
 例えば、ある老人は彼女と出会い、孫のようにかわいがった彼女が帰ってくるのを今も待っていた。
 ある女性は、幼馴染でもある恋人を奪い、遠い地へと連れ去っていった彼女のことを必死にさがし続けていた。
 相手の男性も当然のように、引っ越した新居で一人彼女がいつ帰ってきてもいいように支度をしていた。
 彼女が抜けだしてきたという教団も、信仰する神からの使途だと自ら名乗り出た彼女のことを探すことに固執し、半ば瓦解しても見つかることを願い続けていた。
 教義、プライド、愛情、嫉妬、様々な要因から、老若男女問わず出会った人々は彼女をそばに置こうとし、しかし二度出会うものはいなかった。
(そんな中で、あの男は一番長くいたのね。私が会ったのはほんの数時間だったけど、まさか半年とは)
 逆に言えば、最も留まったときでも半年しか彼女は同じ人間のもとにはいない。拘束の専門家ですら、手玉に取ってしまったのだ。彼女ほどとらわれないものはいないのだろう。
(だが同時に、彼女も自身を捕まえられる相手をさがしているのではないだろうか?)
 今日の男の話から、以前から持っていたその推察が徐々に大きくなっていく。同時に、他の疑問についてもだ。
 どこで生まれ、家族は、環境はどうだったのか?
 私を含めてだれしも彼女が少女だったというが、彼女は今いくつなのだろう?
 どんな心理で、人々のもとを訪れては去っていくのだろうか?あるいは、何も考えていないのだろうか?
 数々の疑問を持って彼女を追うのは、おそらく記者の私が初めてだろう。今まで取材してきた人々はみな、一つのことにとらわれていたのだから。
 だったら自分が、初めて捕捉しそのすべてをつまびらかにしよう。最高のネタとして、大々的なスクープにする。
 男には話さないとは言ったが、記事にしないとは言っていない。彼女について語るには、関わった人のインタビューはいくらあってもいいだろう。
 もちろん、再び会えたその時は伝えるという約束は果たす。私の手によって完成した記事によって!
 おっと、つい興奮して調子を狂わせてしまっていたようだ。次の取材に行かなければいけないというのに。彼女の話から得られた手がかりも、そろそろ尽きてしまう。まあ、足跡が途絶えてもちょうどいい。記事の補完のための取材ではなく彼女を探すことだけに集中できるのだから。
 あぁ、早く彼女を取材しないと取材しないと取材しないと___



 その後、特大のネタは世に出ることはなかった。拘束具師の傑作も同じく未完のままだった。
 彼女にとらわれた当事者たちだけが、記憶に留めたままそのまま人生を終える。
 だから時代が流れても、彼女が変わらず存在することには誰も気づけない。
 少女は今もどこかで、何にも縛られず縛り続ける。


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