僕の家族

高木くれは



 僕の家族は変わっている。
 僕の家にはお父さん、お母さん、お兄ちゃん、お姉ちゃん、僕の五人が住んでいる。世田谷区にある新築の一軒家に住んでるんだ。僕にはおじいちゃんとおばあちゃんもいるはずなんだけど、どこに住んでいるか僕は知らない。お父さんやお母さんに聞いても分からないらしい。でも死んでいるわけじゃないみたい。なんでも、おじいちゃんとおばあちゃんはこの家には必要ないんだってさ。

 僕の家族は変わっている。
 これは自慢なんだけど、僕の家族はみんな容姿が良いことで有名。お父さんはきりっとした顔で、背も高くてとってもかっこいい。若いときはすっごくモテたって時々自慢してくる。お母さんは笑顔が素敵で、周りの人からいつもスタイルを褒められている。確かに、友達のお母さんと見比べても痩せていて美人だなーって思う。高校生のお兄ちゃんはとってもオシャレでいつも髪の毛をセットしている。よく大学生と間違われるんだって。中学生のお姉ちゃんもモテモテらしい。もちろん僕も!
 ただ、不思議なことに僕たち家族はみんな顔が似ていない。僕はお兄ちゃんやお父さんとは似てないし、お姉ちゃんもお母さんとは似てない。でも僕以外は全然気にならないらしい。なんでだろう?

 僕の家族は変わっている。
 僕の家はしつけが厳しい。他の家と比べてもちょっと異常なくらい。食事中はテレビもスマホも一切見ちゃだめで、必ず家族と会話をしなくちゃいけない。さらにしゃべるときははっきり喋らないと叱られる。途中で噛むと最初からやり直させられるんだ。最初は辛かったけど、今では慣れたよ! 何を話せばいいかも、なぜか僕は一度も困ったことがない。

 僕の家族は変わっている。
 以前、誰かに見られているような気がしてならいときがあった。特に家族と一緒にいる時はそれが強く、家族以外の人の気配を感じたんだ。最初はこの家に幽霊が住み着いているんだろうかって思ったけど、違った。だって、僕が学校に行くときも、授業中も、友達と遊んでいるときでさえ、その場にいないはずの、謎の視線を感じたんだもん。お兄ちゃんやお姉ちゃんに相談したけど、二人とも相手にしてくれなかった。なんでも、僕が未熟だからだって。その時はすごく辛かったけど、ある日、謎の視線は気にならなくなっていた。幽霊が僕に飽きてどっかへ行ちゃったんだろうか?

 僕の家族は変わっている。
 なぜだかみんな、時々、家族の名前が分からなくなる。僕は普段、「お父さん」とか「お母さん」って呼んでいるから大丈夫だけど、お父さんやお母さんはよく僕の名前を間違える。自分が名付けた子供の名前を間違えるなんて、そんなことあるんだろうか?

「翔太――ご飯できたわよ、降りてらっしゃい。」
 あっ、お母さんが呼んでいる。
「はーーい、今行くーー。」

 良かった。今回はちゃんと名前を間違えずに呼んでもらえた。
......あれ? 僕の名前って「翔太」だったっけ。

 僕の家族は変わっている。
 僕の家には制限時間がある。門限とか、就寝時間とか、一日にゲームをしていい時間とかそういうのじゃなくて、本当の意味での制限時間。この家には二十四時間住むことができない。実は僕、一度もこの家で寝たことがない。寝ようとしたこともあったけど、寝たふりをしただけ。すぐに起こされた。

 僕の家族は変わっている。
 僕の家族は変わ......
 僕の家族......
 僕の......


 ......
「はい、お疲れ様でした!」
 ハッとその声で我に返る。気が付くと周りをたくさんの大人たちが囲んでいた。今日の家族ごっこはこれにて終了。

......スタスタ。
しばらくして、誰かがこっちに向かってくる。

「お疲れ、颯太。今日も頑張ったわね。最近上手になってきたんじゃない?」
 あっ、母さんだ。
 世界にたった一人、まぎれもない僕のお母さん。
「うん、ありがとう!」


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