短歌

深谷ゆき



《詠題:エプロン》
ひまわりを描く(えがく)あなたのエプロンが脈打つ色に染まりはじめる

《詠題:曜日》
ムーミンの世界に昇ってくるような純粋すぎる水曜の月

《詠題:蛍光》
夏がまだ終わらないよう水色の蛍光ペンでなぞる天球

《詠題:蝉》
そうやって生きるようにと言われたから蝉は自ら後背を裂く

《詠題:石》
見慣れない街をひとりで歩くとき化石のような老猫(ろうびょう)に会う

《詠題:イコール》
イコールの二線の間で蹲るまだ正解を決めたくはない

《詠題:映画のタイトル》
誰しもが願いを持って生きているシザーハンズを空に隠して

《詠題:額縁》
額縁を食パンだけが持っていてはみ出しつづける人生でした

《詠題:料理名》
ポタージュの湯気を見つめて忘れっぽい天使のように微笑んでいる
《自由詠》

ママとだけ泣き叫ぶ君にとってまだパパは背景である、 髪洗う


月光につつまれたまま海へ行くウミガメの背で蘇る星


メレンゲを間に詰めて私たちメレンゲで隣り合っているだけ

幽霊になっても優しい祖父だから泣いたらきっと困ってしまう


朝靄はティッシュのように剥がれゆく 快速で君の住む街へ行く

(永遠にハナミズキだけを数えてる 初めて君は笑ってくれた)


あなただったところの穴に半額の大学芋を詰め込んで泣く


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