アストロノート・アルブレヒト

藩荷原課



きっと誰かの噂話
影形もない筋書き通り
擦り切れていく硝子の器に
ブリキ仕掛けの親しみがある
何も知らない観客たちの
ツーバイフォーの喝采に
「さらば花束!」捻くれ者ね
私の足の車輪の落書き

そしらぬ顔の雨を涙に
舞って焦って狂って擦って
誰もいないわ アストロノート
もう飛び立てない

ここは敗退 またの名を夢
明日無きロールは延々続く
孤高に沈め 嘘に塗れて
「私もう何も期待しないわ」
パ・ド・シャは限りなく果てに

灰色じみた気まぐれが
まともぶった形をとって
腐った花を差し出すの
まだ見えないわ アストロノート
そんな視線が
嫌
嫌
嫌

これは人形 硝子の棺
どこにも行けないジゼルの足に
纏う劣等 空虚のうねり
「私はまだ生き続けているわ」
シャンジュマンの薄ら笑いに

時の止まったリノリウム
矛盾を持たない私は一人
蔑む声を蔑む一人
緞帳落ちてもたったの一人
硬い体をベッドに預け
割れた爪先を懐かしむ
命の色を忘れた日々に
鈍痛代わりの慙愧と憐憫
濡れたタイルと崩れたシニヨン
全天曇った午後三時半
全て投げ出す境を前に
あなたは私の手首を掴む
「そっちは危ない。戻っておいで」
困った顔の通りすがりは
普通みたいに私を引き止め
平凡なまま私に寄り添い
事もなげに同情もせず
当然のように未来を語った
「舞台の君は綺麗だろうね」
ええその通りよ アストロノート
飛び立つ理由はたった一つ

それは再生 痛みを隠し
明日無き私にそれでも翼を
孤高に踊れ 嘘を真に
「私何度でも飛んでみせるわ」
グラン・フェッテは軽やかに

そこは星空 誇りの絶頂
輝くばかりの命の舞台
私に見惚れて アストロノート
あなたがくれた夜空紫
私の総身 力の限り
何もかもで魅せてあげるから
だからどうか
「美しい私に恋をして」
コーダはあなたと一緒がいい


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