神と人とは相容れぬ② きなこもち 前回のあらすじ 神社で出会った神・アメに導かれるまま現世(うつしよ)から離れて幽世(かくりよ)で生活するようになったユキ。 アメにとって自分がどういう存在なのか分からないまま、ユキはアメに渡された絵馬の願いを叶える手伝いをすることに。他の神の手も借りる中で徐々に幽世のこと、神のこと、アメのことを知っていく。 現世の人の記憶に幽世の住人たちのことは残らないことを知り、自分もいつかアメのことを忘れてしまうのか不安になる。その思いを隠して、ユキは願いを叶えてあげた人たちをアメと共に見守っていた。 前回出てきた世界観 ・神社同士なら鳥居を通して移動できる。ただし、行きたい先の神社の神様の許可が必要。 ・神社には御神体があり、それを通して現世と幽世を行き来できる。 ・神物は神様の私物のこと。神様はいつでも使える。 ・転生の輪:魂の行き来。輪廻転生みたいなもの。 第二章 カラン。 何かが落ちる音がした。音の方へ振り向けば、絵馬が一つ絵馬掛けから落ちている。 これはまた、主張が激しいな。 神田さんの一件以来、アメ様には時折、絵馬の願いを叶えるお手伝いを頼まれるようになった。大体が探し物で、アメ様やタマちゃんが力を貸してくれて何とかこなしている。時々スサノオ様も手伝ってくれることがある。 絵馬はいつもアメ様が選んでくれているのだが、今回は自分で選んでごらんと言われたため、今日は一人で絵馬掛けの前に立っている。アメ様がいないのに、こんな主張が激しい絵馬をどうしろと言うのだろう......。 とりあえず、内容を見ないことには始まらない。絵馬をどうするか決めるのは内容を見てからでいいだろう。 『彼が元気になりますように』 ......。これは無理だ。私は神様でもなければ、医者でもない。医学の心得なんて皆無だし、これはアメ様に渡そう。アメ様でも無理だったら、他の神様に頼んでくれるだろう。 とりあえず、自分でも叶えられそうな絵馬を探そう。物探しとちょっとした人助けしかしたことがないからそういうのがいい。 「やあ、ユキ君」 「エビス様!」 再び絵馬を探そうとしたら七福神が一柱、エビス様がまたアメ様の神社に遊びに来た。 彼とは初めて会った時に力を貸してもらってから仲良くしていただいている。 少し前のことだ。絵馬の願い事に書かれていた探し物をしている時に偶然出会った男の人が目の前で倒れた。流石に放っておくわけにもいかず、アメ様にいただいた首飾りで入れてもらえたのがエビス様の神社だ。 「へー、アメ君の眷属かー。久しぶりに見たなあ。アメ君ったら何も教えてくれないのだから薄情だなー」 エビス様の神社で男の人を介抱しているうちに、彼は苦学生で、学費免除と奨学金で大学に通い、バイト代で生活費を賄っているが、家賃と光熱費が払えそうにないらしく、食費を削りバイトを詰めているうちに体調を崩したということが分かった。 「ふむふむ、君も大変だ」 「エビス様、何とかできないのですか?」 神様に軽率にお願いしてはいけないって言われているけれど、目の前で困っている人を見捨てることもできないだろう。 エビス様は、えーどうしようかなー、なんて笑っていて、なんだか適当な部分がアメ様に似ている気がした。 「あ、じゃあ、この子助けてあげるからアメ君の眷属君は少し僕に付き合ってよ」 「えっと、例えばどのようなことに付き合えばいいのですか」 えー、うーん。例えばかあ。 間延びした声を発して頭をゆらゆらさせるエビス様。 「あ、じゃあ、でーとってやつしてみよう。僕、お金ならあるからさ、買い物に行こう。君をもっと着飾ってみたい」 「まあ、それなら」 ということで、エビス様とお買い物をすることになったのだ。エビス様は約束通り、その男性を助けてくれた。目の前に当たりクジを落とすことで。男性はとても感謝していたから、お買い物くらい大丈夫だろう。 そう思ったのが間違いで、さすがは福の神。私みたいな平凡な人間では入ったことがないとてもお金のかかるお買い物だった。それに何故か普通に人との会話が成立している。神様は人からは見えにくいはずなのに、彼は店員さんに普通に話しかけられていた。 「え、どうしてあの女性が僕に声かけたかって? 僕、そういうの得意なんだ。認識される必要があるときは認識されるように。必要ない時はされないようにってね」 私の質問にさも当然かのように答えていた。アメ様もしないだけで、できるのだろうか。 彼はそんなことよりも着物を選ぶのに必死になっている。 「うーん。アメ君の眷属だし、名前もユキならそれに合わせたいよねえ。やはり白かなー。髪も綺麗な黒だし、白は似合うと思うんだよねえ。ああでも、アメ君は薄い水色が好きだよねえ。あ、これが良いかなー」 エビス様が良いなと言ったのは、落ち着いた雰囲気の水色(青磁色というらしい)に、少しだけ花が刺繍されている着物だった。 「この留袖は良いね。綺麗だし、刺繍も上品だ。これを着せてもらっていいかな?」 エビス様の言葉に店員さんは少し困った顔をする。 「あの、お客様。これは留袖ですので、彼女にはまだ早いかと......」 「え、早くないよ。彼女はもう既婚者も同然だから」 失礼しました、と頭を下げる店員さん。 「ちょっと待ってください、エビス様。私、まだ結婚してませんよ」 「え、ユキ君はアメ君の眷属なんでしょ。眷属なら、他と結ばれることはないのだから、既婚者と同じようなものだろう。まあ、本当は巫女装束が正装だけれど、そればかりでは飽きちゃうし。振袖は駄目でも留袖ならアメ君も何も言わないと思うよ」 アメ様は私が振袖着てても何も言わないと思うけれど。そもそも、他の神様とお買い物してていいのだろうか。絵馬の探し物も終わってないし、何ならアメ様のお部屋の掃除も終わってないから早く帰りたいのだが。 考え事をしながら、店員さんに着物を着せられる。エビス様はいつの間に帯や小物を選んだのか、もう気にしたら負けだ。 着替え終わってエビス様に見せれば満足そうに微笑んだ。 「僕の見立ては間違ってなかった。うん、綺麗だ。じゃあ、これ着て帰るね。支払いは現金でいい?」 そのお札の枚数を現金で払う人初めて見た。いや、人じゃなくて神様だけれど。 「いやー、多くの人の子が僕の神社にお金を出してくれて、その一部は宮司経由で当然のごとく主祭神である僕の物になるのだけれど使う機会がなくて困ってたんだよねー。僕の眷属は男だけで、着飾る対象はいないしさあ。君みたいな可愛い眷属がいて、アメ君が羨ましいよ。さあ、送ってあげるから帰ろう。君の姿を見て驚くアメ君が見たい」 エビス様は近くにあった小さなお社の鳥居をアメ様の神社に繋げた。 「あれは僕の分社だからね。さあ、着いたよ。アメくーん、エビスお兄ちゃんが遊びにきたよー」 「鳥居を繋げた時点で分かっていますよ、エビス様。いきなり何用ですか」 アメ様がやれやれと言った感じで拝殿の方からやって来た。そういえばさっき人がぞろぞろと拝殿から出てきていたから、祈祷が終わった頃なのだろうか。 彼は私を見ると顔を綻ばせた。 「よく似合ってる。エビス様の見立てというのが多少気に食わないけれど。でも、これは駄目かな」 彼は私の髪から簪を抜いた。 「簪が欲しいのなら近いうちに僕が贈ってあげる。だから、これは駄目」 別に簪が欲しいわけでもないのだが、少しばかりアメ様が不機嫌な気がしたから頷いておく。 「えー、やはり見つかったかー」 「流石にね。壊してもよかったけれど、困るでしょう?」 アメ様が簪をエビス様に渡す。エビス様は口を尖らせて文句を言う。何千年も生きている神様なのに、なんだか可愛い。 「確かに、これを壊されてしまったら僕が困ってしまうかな。ユキ君の首飾りと同じ様なものだし。あ、ていうかさ、アメ君にこんなに可愛い眷属がいたなんて聞いてないよ。なんでお兄ちゃんに教えてくれなかったのさ!」 エビス様は自分のことを『お兄ちゃん』と言っているけれど、背はアメ様の方が大きいし、はいはいと流している雰囲気からも、どちらかというとアメ様の方がお兄ちゃんみたいだ。 「いくらエビス様とて、全てを話す必要はないでしょう。でも、少しばかりお尋ねしたいこともあったので近いうちに伺おうとは思っていました。今から、お時間いただけますか」 今日は暇だから大丈夫ー、とやっぱり間延びした声で答えていた。 それ以降、エビス様は度々遊びに来る。アメ様がいたら鳥居を繋げて、いなかったら人と同じように歩いてくる。どうしてそこまでして遊びに来るのか少し疑問だけれど、私としてはお話できる人が増えた気がして嬉しい。タマちゃんやヒメ様、スサノオ様も優しくしてくれるし、仲良くしてくれているのだが、三柱とも神々しくて気後れする。別にエビス様が神々しくないわけではないけれど、話し方のせいか少し親しみやすい。 「今日は何をしているの?」 「アメ様に自分で絵馬を選ぶように言われたので。物探しばかりしているので、似たようなものがいいなとは思うのですが」 「たまには違うのを経験した方がいいと思うけれどなー。まあ、それに関しては僕が手を貸してしまっては駄目だろうから、僕はアメ君のところに行かせてもらうよ」 彼の言うことはもっともだ。少しくらいは違う願い事も挑戦してみようかなと思いながら絵馬を探そうとしたのに、エビス様がお社とは反対の方へ歩いていったので、仕方なく彼をお社の最奥、御神体のところまで案内した。ここまで来たらついでなので、先ほど落ちた絵馬をアメ様に渡してしまおうと思い、私も神域に入る。すると、いつもとは神域の空気が違った。何かを拒むような空気。 「あららー。招かれざるお客様が入ってきてしまったかー。全然気が付かなかったな。ユキ君、手に持っている物ちょっと見せて」 私はエビス様に絵馬を渡す。エビス様は分かりやすく眉をひそめた。 「うえー、触るものではないな。これはすごい」 「ユキ! エビス様! 何があったのですか!」 エビス様が絵馬を床に捨てた時、アメ様が走ってやってきた。 「ユキ君が持ってきたその絵馬、それはいけない。早く浄化をするなりしないと、神域が穢れる上に、それを書いた人の子も危ない」 エビス様は絵馬に指を差しながら言った。 「これは......。下手に壊せないのが厄介だ。ユキ、スサノオ様を呼んできて。いなかったらクシナダヒメ様に頼んで呼んでもらって」 「わ、分かりました」 私は急いで神域から出て、鳥居を八坂神社に繋げた。繋がったということは、スサノオ様はいらっしゃるのだろう。出迎えてくれたスサノオ様の眷属に事情を話せば、眷属の人はスサノオ様を呼んできてくれた。スサノオ様は私の姿を見るや、すぐに事情を尋ねてきた。 「私が絵馬を神域に入れてしまって......。それが、良くない念が籠っていたらしく」 「ちっ。そんなもの壊してしまえばいいものを。俺を呼ぶということは、絵馬を壊さずに厄だけ祓えということか。まあいい、行くぞ、ユキ」 スサノオ様と一緒にアメ様の神社に戻る。スサノオ様は勝手知ったるといった様子で神域に入った。 「アメ。どの絵馬だ」 「スサノオ様、助かります。壊したくはありません。呪を祓ってはいただけませんか」 アメ様が頼むと、スサノオ様は口角を上げる。 「厄ではなく呪とはな。だが、これくらい容易い。貸し一つだぞ。こい、天羽々斬(あめのはばきり)」 スサノオ様が両手を合わせると、手の間から光が漏れる。掌を離すと同時に剣が現れる。 「アメ、ユキとエビスに距離を取らせろ。できるなら結界も張れ。これは眷属や福の神であるエビスにも毒だ」 「スサノオ君ひどーい。僕だってこう見えて高位の神なんだよー。結界なら僕の方が得意だと思うよ。おいで、招福(しょうふく)」 エビス様が呼んだのは釣り竿。おそらく神物である招福と言う名の釣り竿。釣り竿って何をするんだろう。 「ユキ君、僕から離れないでね。アメ君、君はスサノオ君の補助を」 エビス様が釣り竿を振るえば、自分たちの周りだけ空気が澄んだ。 「おそらく、あの絵馬は人の念だけではない。何か別の物が絡んでいる。それがユキ君の前で落ちたとすると......。ユキ君、何かした?」 首を思い切り横に振って否定する。 「あはは、だよねえ。あれは、 」 え、今なんて......。 「まあ、大丈夫。スサノオ君はあれでも三貴神(さんきしん)の一柱だしね。あ、三貴神っていうのは、僕たちの中でも最も偉い神のことだよ。アマテラス君、ツキヨミ君、スサノオ君のことね。ツクヨミ君って言った方が伝わるのかなー」 エビス様の声は笑っているのに、顔が笑っていない。普段顔も笑っているエビス様が笑っていないということは、結構深刻な状況なのだろう。 少し離れた場所で、スサノオ様が話す。 「おい、アメ。分かっているだろう。これが何を意味するのか」 「そうですね。これほどのことをされてしまったらね。でも心当たりがないのですよ」 スサノオ様が剣を絵馬に突き立てる。 「この一件に関しては姉上に報告させていただく。そのうち呼び出されることも覚悟しておくんだな」 「これを見た時点で全て覚悟の上です。ご迷惑おかけして申し訳ありません」 スサノオ様がさらに剣を深く突き立てる。すると、絵馬が炎に包まれた。 「さすがだなあ」 絵馬の炎を見てエビス様が呟いた。 「何がですか?」 私が問えば、エビス様は小首を傾げる。 「なんでもないよ。さ、僕から離れないで。そろそろ呪が消えるから、その時に取り憑かれないようにね」 エビス様が私の肩を掴んで抱きしめてきた。 「ごめんねー、アメ君がいいよねー。でも、これはまだ君には見せたくない」 何も見えない。アメ様やスサノオ様が何をしているのか分からない。見えるのはエビス様の和服の地模様だけだ。分かるのは、今の状況が危険だということだ。 「俺とて三貴神が一柱。この程度の呪が祓えなければ姉上に合わせる顔もない」 「スサノオ様、もう大丈夫でしょう。それ以上は絵馬が壊れてしまいます」 アメ様の声を合図に、エビス様の腕の力が緩んだ。 「おつかれー、アメ君、スサノオ君。ユキ君、もう大丈夫だよ。ごめんね、苦しかったでしょう」 エビス様から解放されて、アメ様たちの方へ向けばアメ様が静かに絵馬を拾っていた。 「これ自体に害は無いようだ。良かった。スサノオ様、ありがとうございました」 アメ様がスサノオ様に頭を下げる。私も慌ててスサノオ様に駆け寄って頭を下げた。 「スサノオ様、ありがとうございました。本当にご迷惑おかけしました。私が何も気が付かずに絵馬を神域に入れてしまったばかりに」 「お前は悪くない。これの侵入を境内まで許してしまったのはアメの失態だが、俺でも気づけたか否かは分からぬ。呪は祓えたからあまり気にしなくてもいい」 頭を撫でながらスサノオ様が慰めてくれる。彼の言うことが本当なのかどうかは分からないが、どっちにしても少し情けない。何の躊躇いもなくあの絵馬を神域まで入れてしまったのだから。 「アメ、俺は今から姉上に謁見に行く。お前はどうする」 「僕は召集を命じられたら参上仕りましょう。今は不必要に神社を空けたくはありません」 その言葉を聞いたスサノオ様はちらりと私を見た。 ような気がした。 「そうだな。今はあまり良くないだろう。ユキ、お前も十分に注意をしろ。力のないお前は狙われやすい」 私が狙われるって......。私を狙ったところで何もないだろうに。でも、アメ様に迷惑をかけるくらいなら気をつけよう。 アメ様といくつかの言葉を交わしたスサノオ様は神域から出ていった。エビス様はアメ様に用事があるとのことでここに残るようだ。私はどうすればいいのかと思ってアメ様を見たら、絵馬を渡された。 「これ、頼んでいいかな」 この絵馬って、さっきの絵馬だよね。私は医者でも神でもないから無理だ。 素直に告げれば、彼は大丈夫だと言った。 「これは医学も神の力も必要ない。これに必要なのは最初から最後まで向き合おうとする心だ。ユキならできるよ」 そう言われてしまっては仕方がない。頑張ればどうにかなるのだろう。まだ夕暮れまでは時間があるから、せめて書いた人にくらいは遭遇できるといいのだが。 挨拶をして神域を出ようと御神体の方へ向かおうとした時だ。エビス様に腕を掴まれた。 「エビス様?」 「ユキ君、これを持って行って」 渡されたのは、薄い赤色の小さな円形の何か。 「これは僕の神物である鯛の鱗だ。これがあれば僕の力を君に貸せる。何かに襲われたらこれで結界を張ればいい。長い時間は保てないが、アメ君を呼べるくらいの時間は稼げるはずだ。別にこれを使ったから僕の眷属だとかそういうことにはならないから」 だからといって、それをもらうわけにはいかないだろう。 断ろう。そう思った時に気が付いた。エビス様の手が震えていることに。 「お願いだから持って行って。僕は、今度こそ君たちを守りたいんだよ」 笑いもせず、声を伸ばすこともない。私の目を見て、真っすぐに向けられた言葉。それに気が付いていて、断ることができるはずもない。 「わかり、ました。ありがとうございます」 受け取った後でアメ様を見やれば、彼は俯いていた。 アメ様とエビス様には私に対して何か共通の秘密がある。スサノオ様も直接関与こそしていないが分かっているのだと思う。それは、アメ様の一人目の眷属と関係があるのだと気が付いたのはいつだったか。でも、きっと教えてくれないことも分かっている。神様の秘密に首を突っ込もうとは思わない。 私は別に、アメ様の隣にいられればいい。少しでも彼の手助けができればそれだけでいいから。 「では、行ってきますね」 明るく、笑顔でそう言った。二人はどこかほっとしたように、いってらっしゃい、と手を振ってくれる。 うん、これでいい。 私は彼らに背を向けて御神体へ向かった。現世に戻って、絵馬の名前に触れる。絵馬の名前に触れれば、その人のそば、または、近しい人の所に移動できる。しかも、この絵馬を持っている状態でこちらから話しかければ普通の人にも認識されやすくなる。便利だなあ。 移動した先では、長閑な田園風景が広がっていた。はて、ここはどこだろう。 誰かに場所か絵馬の名前について聞こうと思うが、周りに誰もいない。いるのは烏だけだ。 「山田みきさん、かあ」 「呼んだ?」 肩甲骨くらいまでのふわふわとした髪。大きな瞳に少しだけ弧を描いた唇。 「あれ、あたしじゃない?」 私の顔を覗き込みながら首を傾げる女性。同じ性別である私でも思う。とても可愛い。でも、どこから来たのだろう。 「えっと、山田みきさんですか?」 「そうだよ。あたしが山田みき。あなたは誰かな。初対面だと思うんだけど」 警戒するわけでもなく、人懐っこく話しかけてくる。なんだか、前にもこういう感じの人に会った気がする。あ、幸助さんだ。まあ、関係ないけれど。 「私はユキと言います。えっと、その、以前うちの神社にいらっしゃったと思うのですが」 ああそういえば、と笑う。 「でも、なんで? あたし、何かした?」 うん、これが当然の反応だよね。どうしよう、何も考えてなかった。 「なーんてね。あなた、普通の人じゃないよね。幽霊?」 「え?」 いきなり確信めいたことを言いだすみきさん。私は言い訳もできず困るばかり。 「あ、別に誤魔化さなくてもいいよ。あたし、小さい時から見えるんだ。でも、あなたは幽霊じゃない気がする。神様とか仏様かな」 この人すごい。ほぼ正解だ。ここまで分かっているのなら嘘をつく必要もないのだろう。 「私は神社でお手伝いをしています。眷属のようなものだと思ってください。貴女の絵馬の願い事を見て、神様に願いを叶えるお手伝いをするように言われました」 正直に話すと、みきさんはお礼を言いながら抱きついてきた。 「ユキちゃんは神様のお使いなんだね。助かる。彼って、あたしの彼氏なんだけど、少し前からずっと悲しそうだったの。理由を聞いても笑って誤魔化すばかりで何も教えてくれなかった。あたしは以前のように彼には幸せになって欲しいんだ。なんでもするからさ」 これほど彼氏想いの良い彼女さんなのに、彼氏さんはどうして笑わないのだろう。でも、何かしら理由があるのだろうな。でも、私に何ができるのだろうか。 「あ、でも、せっかく神様のお使いに出会えたんだから、私の住んでいる場所の良いところを教えてあげる。ここはね、あなたの神社の神様の加護がある地だと言われてるんだ。この科学重視の現代社会でこんなこと言ったらよく笑われるんだけど、ここの自然が豊かなのは神様のおかげだってあたしは信じてるんだ!」 さあ、行こう。行先を指差してから走り出すみきさん。 最初に連れていかれたのは先ほどの場所からも見えていた田園。稲の間をカモが泳いでいる。水路には色々な魚が泳いでいて、確かに私の住んでいた場所や、神社のそばからは考えられないような光景だ。 「すごいでしょ。小さい頃は、ここでザリガニ釣りとかをしたんだよ。アメリカザリガニばっかりだったけど」 みきさんは生物に詳しくて、大学では生物を専攻しているらしい。 「あたし、兄ちゃんがいるんだけど、兄ちゃんによく魚釣りとか、魚取り、虫取りに連れていかれたんだよね。そのせいで生き物に詳しくなっちゃって、いつの間にか大学で勉強してた」 田んぼの間の道を歩きながらみきさんが語る。次に連れていかれたのは、田園のそばにある林。舗装された道は存在せず、いわゆる獣道を躊躇いもなく進んでいく。 「ここはさ、色んな昆虫が獲れるんだ。カブトムシなんてとっても大きいんだよ。それに、絶滅危惧種の昆虫も多いしさ。こんな場所に住めるようにしてくれた神様には感謝だよねえ」 どんどん林の中を進んでいく。アメ様の下でお手伝いをするようになってから大分外で動き回ることが増えたとはいえ、元々は家で本を読んでいる方が好きな人種だ。林なんて歩いたこともない。 「はい、着いたよ」 「え、ここって......」 林の奥の小さなお社。言われなくとも分かる。これはアメ様を祀ったお社だ。 「あたしは、あなたがいる神社には行ったことがない。ここで毎日お願いしていただけ。絵馬じゃなくて、ノートの切れ端にお願い事を書いてここに置いていっただけなんだ。でも、神様は確かにあたしの願いを聞いていてくれたんだね。やっぱり優しい神様だ」 彼女はそんな風に言って笑った。 「さ、帰ろうか。そろそろ日が暮れるから危ないしね。彼氏の話はまた明日にしよう。明日も来てくれるんでしょ?」 「みきさんが良いと言うなら、明日も来たいです」 もちろんだよ、と笑ってくれた。林を出ると、辺りは夕焼け色に染まっていた。 早く帰らなければ。 「みきさん、今日はありがとうございました。また明日」 一礼だけして、絵馬の神社の名前のところに触れれば、神社に戻る。無事帰ることができて安堵しつつお社の御神体へ向かい、神域に戻る。 「ただいま戻りました」 出迎えてくれた宮司さんに手を洗ってくるように言われたので、炊事場に手を洗いに行こうとしたら怒鳴り声が聞こえた。この声はおそらくエビス様。普段笑っていることが多いから、怒っているところは想像できない。 いつも大切な話をするときは、私や宮司さんに聞かれないように結界を張っているのに、声が聞こえるということは結界を張り忘れているのか、そこまで大事な話ではないのか。どちらにしてもあまり聞かない方がいいだろうから、このまま手を洗いに行こうと思って踏み出したときだ。 「アメ君は、ユキ君が前のように犠牲になってもいいのかい?」 何の話だろう。私が犠牲になるとは。いや、それは別にいい。それよりも『前のように』ってどういうことだろう。 「僕は嫌だ。前のように君の眷属が犠牲になるのは。僕はもう二度と君たちのあんな顔は見たくない。君だって、これが彼のせいではないと分かっているはずだ。君もきちんと向き合うべきだ」 「これは僕の問題です。貴方が手を出して立場を悪くする必要はない」 「君の問題は僕の問題だ。だって、僕はお兄ちゃんだから」 もうお暇するよ。声と立ち上がる際の衣擦れの音が聞こえたので、私は慌てて炊事場に逃げ込む。手を洗って、ちょうど帰ってきたところですよ、という風に装って炊事場から出れば、丁度御神体のお部屋に入ろうとするエビス様と見送ろうとしているアメ様に鉢合わせした。 「あ、ユキ君、お帰りなさい。大丈夫だったー?」 いつもの笑顔。先ほどの怒鳴り声が嘘だったかのような、穏やかで間延びした声。 「はい、大丈夫でした。絵馬を書いた女性もとても優しい方で、何とかなるような気がしています。頑張りますね」 いつも通りの彼に安心しつつ、私も盗み聞きしていたことを悟られないように笑顔で答える。エビス様は頑張ってねと言葉を残して神域から出ていった。 「ユキ、お帰り。僕も手を洗ってくるよ。ご飯にしようか」 アメ様もいつも通り。 「アメ様」 どうしたのと振り向いて微笑んでくれる優しい神様。 誰がアメ様に呪なんて送ったの。前の眷属の人はどうなったの。私と何の関係があるの。どうして私のことは眷属にしてくれないの。一体、何を隠しているの。 聞きたいことは沢山あるけれど、どれも口に出して聞く勇気はない。 「私はアメ様と一緒にいられて幸せですよ」 願わくは、ずっと貴方といられますように。 「私が貴方を笑顔にしますよ」 難しいかもしれない。これからのことには不安しかない。でも、馬鹿みたいな言葉にも、ありがとうと言ってくれる貴方には笑っていてほしい。 たとえ、エビス様の言葉が本当だとしても。 『あはは、だよねえ。あれは、神の呪だ』 * 「ユキちゃん、今日も来てくれたんだ。よし、今日こそ彼氏の家に行こう。あ、でも、彼氏にはユキちゃんのことが見えないかもしれないかあ」 「それは大丈夫だと思います。誰かと話していると認識されやすいようなので」 変なのと笑うみきさんは昨日と同じところで待っていてくれた。今日来る時間も場所も伝えていなかったのに、どうして分かったのだろう。 「じゃあ、行こうか。彼氏の家はね、ここからすぐなんだ」 みきさんに案内されたのは二階建ての小さなアパート。みきさんは大声で名前を呼び、彼氏さんに来訪を告げる。すぐに足音が聞こえてきて、扉が勢いよく開いた。 「あ......」 彼氏さんは私を見て驚いたような顔をして、すぐにみきさんに視線を向けた。 「みき。今日はどうしたの。彼女はお友達?」 「うん。あたしの願いを叶えに来てくれた神様のお使いなんだよ」 ええええ。それ言っちゃうの。彼氏さんは信じてくれるのかな。普通は引かれて終わりだよ。 恐る恐る彼氏さんの方を向けば、彼氏さんは優しく目を細めた。 「そうだったんですね。初めまして、大宮学(おおみやまなぶ)といいます。良かったら上がってください。ユキさんは何か飲めますか?」 「あ、お気遣いなく。突然お邪魔してしまってすみません」 大宮さんの顔にはよく見ると隈があった。どことなく疲れた様子が伺える。ひょっとして大宮さんはみきさんに対してもう気持ちがないのだろうかと思った。それだったら元気がないと言うのも理解できる。しかし、大宮さんのみきさんに対する態度からは考えられないくらい、彼の目は慈愛に満ちていた。 結局、三人で楽しく会話をして時間が経ってしまっていた。 「そろそろお暇しますね。楽しかったです」 「ユキちゃん、明日も来る?」 頷けば彼女は嬉しそうに笑う。大宮さんもまた明日と言ってくれた。 それから一週間、ほぼ毎日のようにみきさんのところに顔を出した。アメ様のお手伝いや、お社の掃除もあるから行く時間はその日によって違う。それなのに、みきさんは私が行くと必ず出迎えてくれた。 この一週間で疑問に思ったことは三つ。 一つ目。何故みきさんは私が来る時間が分かるのか。 二つ目。大学院も休みではないはずのこの時期にどうしてみきさんは毎日学校に行っていないのか。(ちなみに大宮さんは在宅勤務らしい) 三つ目。どうして、みきさんは大宮さんの机に飾られている写真と全く同じ格好を毎日しているのか。 三つ目がおそらく全ての答えなのだ。大宮さんも全て分かっているのだ。だから、私の存在をすんなりと受け入れた。気づいていないのはみきさん一人。毎日大宮さんと幸せそうな顔をするみきさんに真実を聞けるはずがなかった。 どうすることが正解なのか分からなかった。気づかせてあげることが優しさなのかもしれない。しかし、みきさんにとってそれが幸せなのか分からない。成仏した方が良いというのは、あくまで生きた人間の勝手な考えでしかない。 「どうするのが正解なのでしょう」 アメ様に相談をすれば、彼は一緒に悩んでくれる。 「僕は彼女ではないから分からないけれど、忘れられてしまうことへの恐怖があるのかもしれないね。忘れられてしまったら、本当に存在が消えてしまうから。実際の所は分からないが、何かしらの思いが彼女を現世に留め続けているのかもしれない。彼女の恋人が何を思っているのか分からないが、彼もまた迷っているのだろう。それが心身に影響を及ぼし、それを彼女が心配して余計に現世から離れられないという悪循環」 忘れられることへの恐怖。考えたこともなかった。 「忘れられたくないから現世に残ってしまうこともあるのですね」 アメ様は静かに頷いた。 「現世に残ってしまう理由はそれだけではないけれどね。未練があるから残ってしまう魂がほとんどだ。でも、そういった理由の方が救いようがある。一番悲しいのは、自分が死んでしまったことに気が付かずに、生きていると思い込んだまま現世に残ってしまう魂だと思う」 「自分が死んだことに気が付いていない、なんてことがあるのですか?」 「あるよ。肉体は完全に死んでしまったのに気付いていない時もあれば、肉体は生きていて、魂だけが一人歩きしてしまうこともある。僕はそういった魂も含めて全ての迷える魂が、除霊師や、寺の関係者に見つからないことを祈るばかりだ」 そういえば、お寺には近づいてはいけないと言われていたなあ。特に守らない理由もなかったし、疑問に思うこともなかったけれど、理由を聞いてなかったな。 お寺に近づいてはいけない理由を聞けば、彼は分かりやすく教えてくれる。 「僕たち神と違って、仏は全ての人の子を平等に救おうとする。たとえ神の眷属であろうとね。それは僕たち神にはできないことだ。だが、仏の思う救いが、人の子にとって救いではないことだってもちろんあると僕は思う。だから、生きた人の子に悪さをしない魂には自分で納得して転生の輪に戻ってほしい」 「アメ様はやっぱり優しいですね」 素直にそう言えば彼は首を横に振る。 「神は優しくない。仏の方がよほど優しいと言える。僕たちは、人の子に救いだけを与える存在ではない。加護を与える時もあれば、罰を与える時もある。恵みを与える時もあれば、天災を与える時もある。欲しいと思った人の子は、己の眷属にしてずっと手元に置いておく。それが神という存在で、君は仏からしたら、神に捕らわれてしまった哀れな魂だ」 それはあくまで仏様の視点であって、私は全然可哀想ではない。確かに、初めは逃げ出すためだけにここに来た。でも、今は確かに自分の意志でここにいるのだ。 だって、帰りたいと言えば彼が帰らせてくれることくらい分かる。言い出さないのは自分の意思なのだから。 「私は可哀想ではないです。私は自分の意志でここにいるから。それにしても、どうしたらみきさんの願いは叶いますかねえ。『彼が元気になりますように』ということは大宮さんが笑えばいいのでしょうか。でも、大宮さんは結構笑っています。本当に優しい目でみきさんを見ているんですよ」 「僕には人の子の心の機微は分からないんだ。だから、この絵馬を君に託したんだよ」 心の機微ねえ。私だってそんなもの分からないのに。 あれ。ていうか、みきさんは初めて会った時、何と言っていただろうか。『ずっと悲しそうだった』と言っていた。私の中の大宮さんは疲れた顔はしているが、悲しそうではないような気がする。みきさんといられて幸せそうだ。あれが作り笑顔だったら、本当に人間不信になりそうだ。でも、みきさんの願い事は叶っていない。 もしアメ様の言う通り、忘れられたくないという理由で現世に留まっているのなら、机の写真やアルバムなどの思い出がたくさんあるあの部屋を見ても忘れられるという恐怖に駆られているということだ。それはないのではないだろうか。人間は意外と単純だ。 何かおかしくないだろうか。彼が元気になるように毎日お社に通っていたと言った。お願い事を紙に書いてお社に置いていったということは、お社に通っていたのは生前。だって、みきさんは今は物に触れない。だから、初めて大宮さんに会った時、私は『何か飲みますか』ではなく『何か飲めますか』と聞かれたのだ。 彼女の生前から何かしらの理由で元気がなかった大宮さん。それをどうにかしたくてお社に通ったみきさん。そして何かしらの理由で亡くなったみきさん。その後、何かしらの理由で現世に留まっているみきさんと今は幸せそうな大宮さん、願いの叶っていない絵馬。 彼女が亡くなったのはいつで、原因は。 「ユキ、どうかした?」 「アメ様、私、幽世に来てから初めてスマホが欲しいと思いました」 「え?」 思い至った私は、次の日起きてすぐに宮司さんに頼んでスマホを貸してもらった。ちなみに私のは理由は分からないがお亡くなりになられていた。スマホでみきさんの名前を検索すれば、数件ではあるがネットに記事が載っていた。 彼女の卒業研究が大学で賞を受けたこと。彼女のお兄さんが大学教授として出した論文が国内で受賞した時の家族コメント。 そして、彼女が亡くなった時の記事。 彼女の死因は殺人だった。大宮さんとのデートの後、帰り道を一人で歩いていた時の出来事だったらしい。犯人はすぐに捕まったらしいが、大宮さんは家族や取材陣に相当追い詰められたらしい。しかもこれ、一年前の事件。一年間、彼らは一緒にいたのだろうか。 「アメ様。亡くなってしまった人の魂がそばにある場合、生きている人に影響はあるのですか?」 「あるよ。君たちだって言ってるじゃないか、取り憑かれるって。人それぞれ差はあるけれど、何かしら影響はあるだろうね」 一年もそばにいたのなら、何かしら大宮さんに影響があっても仕方ないだろう。 私はいつもと同じように絵馬の名前に触れてみきさんたちに会いに行った。みきさんはやっぱり出迎えてくれて、大宮さんの家に連れていかれた。 今日も三人で話をした。会話が切れた時に切り出してみた。 「あの、今度は私のいる神社にも来てもらえませんか。アメ様も会いたがっているんです」 私の予想が正しければ、みきさんは行けないはず。 「あ、あたしはいいや。学だけ連れて行ってあげてよ」 やっぱり。大宮さんは少し迷っていたけれど、みきさんの後押しもあって、少し遠いから新幹線を使わなければならないのに明日来てくれることになった。 「それでは、明日、神社で待っていますね。よろしくお願いします」 「じゃあ、明後日はまた来てね。あたし、皆で話すの楽しくて好きだからさ」 みきさんと明後日の約束をして、まだ早い時間ではあったがお暇することにした。みきさんはまだ大宮さんのお家に残るようなので私は挨拶をして大宮さんのお家を出た。 お昼ごろにここに来たからまだまだ夕暮れまで時間はあるけれど、私は行っておきたい場所があった。みきさんに案内してもらった林を進んだ先に存在する小さなお社。私はそっと小さなお社に手を合わせる。 何故か分からないけれど、ここに来ないといけないと思ったのだ。 まるで隠れるかのように建てられたお社。神様の加護がある地という割には、お社がひっそりとし過ぎていないだろうか。これだったら、私のいる場所の方がよほど御利益がありそうなのに。 それに、ここに書いた願いを聞いてくれるということは、アメ様はここにも注意を払っているということだ。大きな分社も多いのにどうしてここまでひっそりしているお社に忘れずに気を配っていたのか。 この地がアメ様にとって思い出深い地なのか、それとも、これを建てた人がアメ様にとって大事な人だったか。 「これを建てたのは誰なのかな」 「俺は、それを建てた人の子を知っているよ」 どうして、今、ここで、この声が聞こえるの。 「どうして貴方がここに。それに知っているって......」 「主に、君を連れてこい、という命を受けたから今日の君の動向を見させてもらった」 主って何。命令ってどういうこと。 そういえば、どうして、この人は私が話しかけずとも初めから私が見えたのだろう。そもそもそこがおかしいじゃないか。 「幸助さん......。貴方は、いったい......」 幸助さんは私に跪いた。 「俺は、火の神カグツチ様の一の眷属で、今の呼び名を幸助と。以後、お見知りおきください」 では、行きましょう。立ち上がり私の手を取った彼は、もう一方の手で彼の首に光る首飾りを握った。何か呟いたかと思うと、景色が変わる。 知らないお社。知らない神様。この神様は誰だろう。 「初めまして、ユキさん。私はカグツチ。火の神だ」 「は、初めまして。アメ様のお手伝いをしています。ご存じだとは思いますが、呼び名はユキと申します。よろしくお願いします。あの、どうして私をここに連れてきたのか聞いてもよろしいですか」 この神様は私に何の用があったのか。もし、この神様がアメ様に呪を送った神様なら、私は早く逃げ出さないといけない。 「あ、そうか。いきなりこんなことをしたら警戒するよね。私は君に言いたいことがあっただけで、君を傷つけるとかそんなつもりはないから安心してほしいのだけれど、信用できないよね。えっと、どうしたらいいかな。幸助、助けて」 「ご自分で何とかしてください。俺は命じられた通りに彼女を連れてきました。あとは貴方次第でしょう」 幸助さんに助けを求めたカグツチ様は冷たくあしらわれていた。彼は意を決したように私を見ると、頭を下げてきた。 「すまなかった。私はずっと君に謝りたかったんだ」 私は何もされていないのに。誰と間違えているのだろう。 「えっと、誰かとお間違いではないですか。私はカグツチ様には何もされていませんよ」 カグツチ様は勢いよく顔を上げて私の肩を掴んできた。 「君は何も聞いていないのか......?」 えっと、何も聞いてないと言うか、多分人違いというか。それなのに彼は止まらない。何故か泣き出しそうになっている。 「私は、君の前世であれほどに酷いことをしたというのに!」 「カグツチ様!」 カグツチ様がまるで怒鳴るように声を上げると、漸く幸助さんが止めに入った。 「カグツチ様、落ち着いてください。普通の人間は転生したら記憶は全て失います。彼女が何も聞いていないということは、それがあの方の決断なのでしょう」 「だが、それでは。私は......。私は誰に謝ればいい......。誰に許しを乞えば......」 よく分からないけれど、カグツチ様は謝りたいのか。でも、私には前世の記憶はない。 「あの、ごめんなさい。私は詳しいことは分からないけれど、カグツチ様がそこまで思い悩む必要はないと思いますよ。カグツチ様が酷いことをしたのは、私の前世なのでしょう。となると魂は私と同じ。でも、貴方を見て、嫌な気持ちになったりはしないので、私の魂は貴方を恨んではいないのだと思います。あまり思いつめないでください」 「どうして、私を許してくれるんだ......」 「どうしてとおっしゃられても......。分からないけれど、カグツチ様は悪い神様ではないような気がして」 カグツチ様は私から離れて背を向けた。 「いきなり連れてきてしまってごめんね。幸助、彼女を神社まで送ってあげてくれ」 「拝命しました」 幸助さんに連れていかれそうになるのを振り払ってカグツチ様の手を後ろから掴んだ。 「あの、またここに来てもいいですか。私、貴方ともっとお話したいです」 私がカグツチ様に声をかけると、幸助さんに肩を掴まれる。 「君、少し慎んだ方が良い。神の御前だ」 「これは私とカグツチ様の問題なのでしょう。口を出さないでください」 思わず大きな声を出してしまった私に、幸助さんは目を丸くした。 でも、人の会話に横槍を入れる方が失礼だろう。 幸助さんを睨みつけていると、カグツチ様が小さな声で言った。 「ありがとう。私もまた君と話がしたい。君が良ければまた来て欲しい。でも、鳥居を繋げることは難しいんだ。どうしようか」 「鳥居を繋げてはいけないのですか?」 カグツチ様は背を向けたまま小さな声で、それは今度話すよ、と言った。 「では、俺の住んでいるところを覚えているか。そこに来てほしい。そうしたら俺が連れてきましょう」 確かに、幸助さんの下宿先なら多分たどり着ける。頷けば、幸助さんは私の腕を掴んでカグツチ様から引き離した。 「では、そういうことで。カグツチ様、俺は彼女を送ってまいります」 「うん、よろしく。いきなりすまなかったね、ユキ。またね」 カグツチ様は結局背を向けたままだった。幸助さんが小さく何かを唱えれば、そこはもうアメ様の神社のすぐそばだった。 「さあ、着いた。日が暮れる前に境内に入った方が良い。ではまた、ユキ」 幸助さんは、初対面の時と大分雰囲気が違う。こっちが素なのだろうか。 あ、そうだ、と振り向きざまに彼は言った。 「今日のことは、君の主には内密でお願いしたい。次会った時に全て話すから、それで主に言うか否かは自分で決めてほしい」 じゃあ、と手をひらりと振って、彼は消えた。 彼が消えた後も、しばらくそこに立ち尽くしていた。 「ユキ、何してるの?」 アメ様の心配そうな声が聞こえて漸く我に返った。今日のことはまだアメ様に言ってはいけないと言われたので、ぼーっとしてました、と言えば彼は笑って頭を撫でてくれた。 「色々任せすぎているしね。無理はしなくていいよ。君ができる範囲でいい。今日も疲れたよね。さあ、手を洗いにいって、ご飯にしよう」 どうやら、カグツチ様に会ったことには気が付かれなかったようだ。なんだか今日は随分と色々なことがあったような気がする。ついでに、やらないといけないことも増えた。 ご飯の間に、アメ様と宮司さんに大宮さんが来ることを伝える。宮司さんは所用でいないとのことなので、私が彼を出迎えることになった。宮司さんがいないので、明日は祈祷もない。ということで、アメ様も大宮さんに会うことになった。まあ、アメ様が会いたがっていると言ってしまったので、会ってくれないと困るのだが。 次の日のお昼過ぎに大宮さんは神社に来た。どこか緊張した顔をしている。拝殿にある部屋に連れていくと、そこで待っていたアメ様が自己紹介をした。 「ようこそいらっしゃいました。僕がここの神様です」 神様とかを信じていない人からしたら頭を疑われるような挨拶だが、真実だから仕方がない。大宮さんも人ならざるものに慣れているからか、驚くこともせずただ緊張したまま挨拶を返していた。 「あの、俺は何のために呼ばれたんでしょうか」 「みきさんに関してお話したいと思いまして。彼女が現世に留まり続けているのはあなたのせいなのではないかと思って」 私が問えば、彼は首を縦に振った。 「そうなのだと、思います。全てを話したら、彼女を救ってくれますか」 大宮さんは懇願するようにアメ様を見た。 「彼女を解放してやれるのは君だけだろう。それとも、無理矢理に転生させるのが望みなのかい」 最悪の場合は、と呟く声は震えていた。 「話していただけませんか。それから一緒に考えましょう。彼女の魂があるべき場所に戻れるように私もお手伝いしますから」 彼は思い出すように話をしてくれた。 「俺と彼女は幼馴染です。俺は彼女の兄と同級生で、彼女ともよく遊んでいました。いつからか俺は彼女に恋をしていて、彼女も俺なんかを好きになってくれた。でも、上手くいかないものですね。彼女の家系は皆優秀なんですよ。彼女もそうだ。俺は彼女に釣り合わない。そう考えたら、会うのが辛くなっていました。好きなのに会うのが辛い。顔を見るのが辛い。そう思ってしまう自分がとても辛かった」 泣き出した彼に無言で箱ティッシュを差し出した。彼は小さく頭を下げてティッシュに手を伸ばした。 「彼女は俺のこと心配してくれたけど、言えるはずもなくて。それなのに、彼女はいつも俺のこと心配してくれて、俺に笑ってくれる。それが辛くて、別れようと思ったんです。最後のデートで言おうと思っていたんだ。それなのに、彼女は。彼女は」 そこまで言って、大宮さんは泣き崩れてしまった。私は何も言わずに彼の背をさすった。 「彼女は言ったんだ。『ずっと気が付かなくてごめんね。あたしのせいだったんだね。あたしのことは忘れてほしいな。そしたら笑ってくれるんでしょ』って。それが最期の言葉だった」 それで別れた後に、彼女は事件に巻き込まれた。 「いなくなってから気付くって本当ですね。俺は、彼女がいなくなって、どれほど彼女に支えられていたのか分かったんです。もう遅かったけど」 それから、最後のデートで撮った写真を飾ったそうだ。彼女を忘れないように。 みきさんが幽霊として彼の前に現れたのは彼女の四十九日が終わった次の日だったらしい。 「いきなり現れたんです。何事もなかったかのように。彼女がそばにいてくれる。本来はあってはならない形なのだと分かっていても、俺は幸せだった」 だから、願ってしまった。彼女が消えないようにと。 「あとはユキさんが知っているような日常を繰り返していただけですよ。俺は、どうするのが正解なんでしょうか」 ずっと黙っていたアメ様が口を開いた。 「君はどうしたい。このまま彼女といたいのか。それとも」 「もう解放してあげたい。彼女を縛ったままではいけないと分かっていたつもりなんです」 アメ様は小さく分かったと呟いた。 「ユキ、後は君の望む通りにやっていい。君がどんな結末を招こうと僕は君を正しいと肯定しよう」 「いいのですか?」 「僕には、彼と彼女の縁を切るか、彼女を無理に転生の輪に戻すしかできない。それを僕は望まない。だから、君に託すよ」 縁を切って、記憶を消してしまえばきっと全て解決だ。でも、アメ様はそれを望まない。私もそんな終わり方は嫌だ。こんなにもお互いを想いあっているのだから。 「分かりました。でももう、私たちが何かしなくとも大丈夫だと思いますよ」 「見届けるのも君の仕事だよ」 アメ様は、善は急げだ、と言って私と大宮さんを立ち上がらせる。 「今日は特別に僕が送ってあげよう」 彼が柏手を一つ打てば、いつの間にか私たちは大宮さんの部屋にいた。 「あれ、今日は来ないんじゃなかったの?」 部屋にいたみきさんは突然現れた私たちに小首を傾げた。 「みき!」 大宮さんはみきさんを見るやいなや彼女に抱きついた。彼女には触れないはずなのに、何故か彼はしっかりと彼女を抱きしめていた。 「ごめん。本当にごめん」 「何のことって聞いてあげたかったけどなあ」 ああ、やはり彼女は自分が死んでいたことに気が付いていたのか。 「全て気が付いていたのですか?」 「うん。さすがにね。ただ、成仏の仕方は分からないし、彼も幸せそうだしいいかなあって。でも、確かに、ずっと心のどこかでは思ってたよ。あたしがここにいたら彼は幸せになれないって。あたしのことなんか忘れて幸せになってほしいって。ユキちゃんが来るまで願い事なんてすっかり忘れてたけどね」 きっと複雑だったのだろう。一緒にいられて幸せだったのは大宮さんだけじゃない。みきさんだってそうだったのだ。でも、大宮さんのためには忘れてもらわないといけない。 「彼が本当に幸せになるにはやはり成仏して消えないといけない。あたしが死んでもなお、願い事が残ってるって知って痛感したよ。でも、なんだかんだあたしもここに残りたかったのかもしれない」 忘れて欲しいけれど、忘れて欲しくない。アメ様の予想は半分だけ正解で半分だけ不正解だったわけだ。 「お前は悪くないんだ。お前をここに縛ったのは俺だ。俺のせいで、ずっとここにいさせてごめん」 彼女は大宮さんの頭を撫でながら尋ねた。 「もう大丈夫かなあ。あたしのこと忘れられそう?」 大宮さんは首を横に振る。 「無理だ。多分死ぬまで忘れられないと思う」 「それじゃ、あたし。いつまで経っても成仏できないじゃん」 「お前がいなくても俺はちゃんと生きてくよ。大丈夫、お前が心配するようなことはしないから。だから、覚えておくくらいは許してくれてもいいだろう」 きっとこれで、絵馬の願い事は叶っただろう。 『彼が元気になりますように』は彼女が別れを告げた瞬間に、大宮さんがみきさんのことを忘れて生きていけること、という意味に変わってしまっていたのだろう。彼女が亡くなって、彼の願いによってみきさんは現世に留まることになった。みきさんは彼の前から姿を消せず、彼の記憶から消えられないから、絵馬の願い事が叶わない。 これが絵馬に関する真実なのだと思う。 でも、多分もう大丈夫。だって、大宮さんが、大丈夫だって言い切ったから。 「あたしのことなんて覚えてて、幸せになれる?」 「忘れた方が、俺にとっては不幸だよ」 「そっかあ」 じゃあ、仕方がないね。笑ったみきさんはちょっとずつ透けていた。彼女がいなくても生きていくって大宮さんが決心したから、みきさんを現世に留める力がなくなったのだろう。 「ごめんね。小さい時からずっと大好きだったよ」 「俺もずっとお前が好きだよ」 二人は強く抱きしめあった後、みきさんが私の方を向いた。 「ユキちゃん、ありがとう。色々とあなたのおかげ。本当にありがとう」 「私は何もしていません。でも、みきさんと話すのは楽しかったです。こちらこそありがとうございました」 彼女はもう一度大宮さんに向き直って、さようなら、と言った。それが本当に最期の言葉だった。 私も大宮さんもしばらくは何も言えなかった。口を開いたのは大宮さんだった。 「ありがとうございました。俺も前を向こうと思います。彼女の絵馬を見つけたのがあなたでよかった」 「私は何もしていませんよ。彼女を救ったのも、決心をしたのも全て貴方です。この結末で良かったです」 私もお暇しようとしたら、大宮さんが、また会えますか、と聞いてきた。 私がこの部屋から出ていったら、大宮さんも私のことはぼんやりとした記憶でしかなくなるのだろうから、また会えるかは微妙なところだ。でも、それを伝えるほど野暮ではない。 「貴方がアメ様に何かを願うなら」 別れを告げて部屋から出た。扉が閉じる音がやけに大きく響いた。 とても短い時間だった気がするのに、空は夕焼けに染まりかけていた。早く帰らないといけない。でも、なんだか寂しくて帰りたくないなと思う。 アメ様の顔が見たいのに、見たらきっと泣いてしまう。 お社に行こうと思った。日が暮れるまではまだ時間があるし、あそこなら大丈夫だろう。何が大丈夫なのか分からないけれど、アメ様のお社というだけで安心できるような気がした。 お社に着いたときには林の中というのもあって、辺りは暗くなりかけていた。そこで漸く我に返った。 「早く帰らないと」 でも、帰り方が分からない。絵馬を持ってこなかった。帰れない。 そういえば、どうして夕暮れ以降に境内に出てはいけないのかを聞いていない。夜に出歩くとどうなるの。 「怖い」 怖い。ひたすらに怖いという感情に支配されていく。 帰らなきゃ。帰らないと消えてしまう。 このままでは消えてしまう。 嫌だ。それは嫌だ。私は彼の所に帰りたい。彼と一緒にいたい。 怖い。こわいよ。 「助けて」 「日が暮れてから境内の外にいるのは危険だと主に言われていないのか?」 恐怖に支配されていた体から力が抜けるのが分かった。 「俺の言葉はまだ通じるか?」 頷けば、幸助さんが私の腕を掴んだ。 「君は片方の手で首飾りを掴んでおくといい。主の命だ。君を神社に送ろう」 「それは、嫌です。今日は、帰りたく、ないです」 回らない舌を必死に動かして途切れ途切れに伝えれば、彼はあからさまに嫌そうな顔をする。でも、こんな姿をアメ様に見られたくない。 「では、このまま恐怖に憑かれて魔に転じてもいいのか」 「それも、嫌です。でも、帰りたくは、ありません」 彼はため息を一つついた。 「では、エビス神の所へ連れていく。俺が頼ることができ、かつ、君とも親しい神がエビス神しか思いつかない。それでもいいか」 エビス様なら大丈夫だろう。きっと、アメ様にも黙っていてくれるはず。 「お願い、し、ます」 幸助さんは私の腕を掴んで、また何かを呟いた。気づけばどこかの神社の鳥居の前にいて、幸助さんはエビス様を呼んだ。 「エビス神。カグツチ様の一の眷属、名は幸助。頼みを聞いてはくれないだろうか」 「カグツチ君の一の眷属である君が呼んでもいないのに僕のところに来るなんて珍しいねえ。しかも頼み事とはね。どうしたのって、ユキ君?」 「見ての通り、夜は初めてなのでしょう。首飾りのおかげでこれ以上の浸食はないと思うが、慣れていない分体力の消耗が激しい。彼女の面倒を見てはくださらないだろうか」 エビス様の慌てた声が響く。でも、意識が朦朧として何を言っているのか分からない。誰かに抱き上げられ、しばらくしてどこかに横にされた。意識を手放しそうになる中で、耳元で大きな声が響く。 「気を強く保て。お前の名は何だ。その名をくれたお前の主は誰だ。お前は誰に忠誠を誓ってここにいる。主たる神に背くようなことだけはするな」 私の名前はユキで。主じゃないけれど、一緒にいるのはアメ様で。私が忠誠を誓うのは。誓うのは誰。 「アメ様、は、私に、居場所をくれたの。彼は私に、好きなだけ、いてもいい、って。でも、私は、彼の、名前も知らない。私は、今の、自分の立場も、分からない。アメ様を、疑ってはない。大事に、してもらって、必要と、されていることも、分かって、る、のに。無性に、寂しい、の。彼は、私に、ひみつ、が、あって。それが、寂しい。わたし、は、かれの、そばに、いたいのに」 そうだ。寂しいのだ。彼が私に何かを隠しているのが寂しい。秘密なんて誰にだってあるものだというのは分かっている。それでも、その秘密のせいで一緒にいられなくなるような気がして寂しい。 「かれの、そばに、いられ、なく、な、る、のが、いちばん、こわい。こわい、よ。いやだ、よ。いっしょに、いさせて。たす、けて、あめ」 意識がぼんやりとしてくる。意識を失いかける寸前で、頬を数回叩かれて意識を引き戻される。 「しっかりしろ。このままでは本当にそばにいられなくなるぞ。くそ。思ったより憑かれている。エビス神、どうにかできないのでしょうか」 「ここは僕の神域だ。これ以上の浸食は絶対にない。あとは、ユキ君が自分で戻ってこられるかどうか。もし戻って来られなかったら、僕がきちんと消滅させるさ。アメ君にはできないだろうからね」 ただ、最善は尽くそう。エビス様が言った後に、誰かの手が私の手に触れる。その手は温かくて、握り返したいのに力が入らない。 「ユキ君、今から僕の質問に答えてね。君の呼び名は」 「ゆき」 「君がいつも一緒にいて、君に首飾りをくれた神の名は」 「アメさま」 彼の質問に答えるだけで舌が回るようになってきた。手にも少しだけ力が入る。 「首飾りの意味を知ってるかい」 「眷属の、証。タマちゃんが最も信用してる眷属にしか、渡さないって」 エビス様が少しだけ微笑むのが気配で分かる。 「うん。そうだよ。タマ君の言う通り。では、その首飾りをもらった君は、アメ君にとってどういう存在」 首飾りをもらった意味。それは、もうとっくに知っている。 「大切な存在」 エビス様がふっと笑った。 「大正解。僕たち神は大切な存在をそう簡単に手放したりしない。だから、君が望む限り、君はアメ君と一緒にいられるよ。怖がることは何もない。さ、もう大丈夫。疲れただろう。眠ると良い。朝になったら全て元通りだよ」 おやすみ、ユキ君。
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