来い濃い恋の縁

アリス




* うちは悪くない
「彼氏、作り方っと」
 スマホで検索をかける。最近は調べれば何でも分かる。スマホ様様じゃん。
「あ、やべ。WiFi繋がってねぇんだが」
 ポチッと接続ボタンを押して繋がっていることを確認する。さぁて、気合い入れて見てみるか。
  オシャレになろう
 オシャレの定義って何よ。人は見た目じゃないっていうけどあれは嘘か。なぁ、嘘か? というか服くらい好きなん、着せろし。あぁ、オシャレというより身だしなみね。分かりみ。ファンデとかリップとかそういうのね。あい、次。
  マメに連絡を取ろう
 あ、これなら得意じゃん。文字打つ速さなら任せて。そのスキルだけは磨いてきたから。まぁ、あんまり対人で生かされたことはないけど。
  友達関係から始めよう
 この文面を見て固まる。スマホを持ちながらベッドにダイブする。
「はぁー。そういうんじゃねえんですわ」
 男友達ができてたら、こんなこと検索してねぇですわ。こんなものを検索結果に出すなんてAIもまだまだだな。進歩をしてるくせにそんなことも分からんとは。まだ、人間の方が勝ちか?
「というか、あいつらが言ってたことと正味変わらんし」
 まぁ、正直なところ、彼氏は欲しいがいいやつがおらんしな。出会いがねぇだけ。
「あーあ、どっかにイイカンジな彼氏落ちてねぇかなー」
 まぁ、なんだ。つまり、うちは悪くないな。今日が13日の金曜日なのが悪い。

* 小賢しい後輩
 折り紙部。この部の正式名称は『この生きにくい世の中でどうにか折り合いをつけて、神がかった彼氏を作る部活動』である。だから正式に書くと折り神部になる。だけど申請がだるいので、折り紙部にしといた。要はモテたいっつーこと。
 部員はたった3人である。一人は小賢しい後輩の加藤(かとう)笹(ささ)。もう一人は小賢しい先輩の佐藤(さとう)琴(こと)。残すはうち。
「そらせんぱーい! そらせんぱーい! 近藤(こんどう)天(そら)せんぱーい。私の話聞こえてます?」
「え、何? うちのこと呼んでんの?」
 小賢しい1号が話しかけてきた。どうせ小賢しい内容に違いない。
「私、日々の会話にこそモテってあると思うんですよ」
「いきなりどったん? 笹生えるんだけど」
「私のこと馬鹿にしないでちゃんと聞いてくださいよ?」
 まぁ、これ以上茶化してもしゃあないので聞いてやることにする。
「で、何?」
「私達って会話の内容があまりにも変すぎるんじゃないかと思って?」
「いや、何? じゃ、普通のJKは何話してんの? うちのイメージだと『バイブス上げてこ?』ぐらいの感覚なんだけど」
「そこはかとない偏見入り過ぎじゃないですか?」
「じゃ、あんたはどう思うわけ」
「きゃっ! タピオカって?丸くて?かわいうぃ?って感じっすね」
「お前、女子なのにそんな幻想抱いてんの? そんなのは男子のイメージでしかないだろ」
「ですよね?」
「はぁ?、馬鹿らし。笹、タピオカ」
「そうですね?。とりあえずタピりに行きましょう」

* 小賢しい先輩
「天くん。そもそもモテってなんだ?」
「琴センから一番縁遠いものっすよ」
「ふむ、なるほど。そのように定義した場合、ボクは今の対極になればモテるということだね」
「いや、ボケ無視されると鬼だりぃす」
「うん、次からは気をつけよう」
 小賢しい先輩、佐藤琴。小賢しいだけでなく小さい。とりあえず、賢げ。ん、小賢しいと被ってね? まぁ、いいか。
「てか、琴センってあんまりモテとか興味なさそうだと思ってたんっすけど」
「うむ。ボクも一応女子であるゆえ、モテたいと思うのも仕方のないことだろう」
「なーる......」
「ボクも日夜、勉強欠かさずいるのさ。最近は少女マンガも読んでいるしな」
「いや、それは参考にしたらマジーやつ」
「だから、今日も芋けんぴ持参してるしな」
「やっべ、このパイセン。手遅れだ」
「何、悔しがることはない。ボクは先輩であるがゆえ、君の髪にも芋けんぴをつけてあげるから安心したまえ」
「マジでそんな無駄なことに油売ってないで、もうちょいまともな方法考えたほうがいいっす」
「そうかい? いい方法だと思うんだけどな。芋けんぴ」
「それ本当に思ってんなら、頭さび付いてるんで、油注したほうがいいっすよ。あ、だからこそ、芋けんぴを髪にブッ刺すのか」
「君は芋けんぴで油を注せると思ってるのかい? 滑稽としかいいようがないね」
「あんたこそな」

* 少女マンガの真理
「ボクは少女マンガにこそモテの答えがあると思って研究を続けてきた!」
 笹に目をやる。さっさと琴センを満足させろと。笹はこっちの心情を理解してか困りながら相槌を打つ。
「流石です、ことせんぱーい」
 先輩はない胸を張って、堂々と宣言する。
「そしてボクは真理にたどり着いたのさ」
「すごいなー、ことせんぱいは」
 おい、笹。流石に携帯見ながらはヤバかろう。一応、先輩ぞ?
「ふふ、そうだろうそうだろう」
「うっわ、チョロ」
 あ、やべ。思わず口を出てしまった。まぁ、いいか?まぁ、いいや。
「んで、琴セン。その真理ってのは何なんすか?」
 話が進まないのも嫌なので、適当に話させることにした。
「セリフにこそ答えはあると見た」
「わー、すごいでーす」
 笹。あいつ、すげぇ度胸だな......。
「マンガから得られる情報は絵とセリフだけ。しかし、アニメでも評価されることを考えると絵よりもセリフが評価対象になっているに違いない」
 琴センは周りを見回して、自分の理論の崇高さを理解できたかといわんばかりに見てくる。さっと、目を逸らす。笹も同じようだった。
「まぁ、そんなにすぐに理解できるとは思ってないさ。さぁ、実際にやってみようか」
 いや、何もしてなくても巻き込まれるんかい。

* 近藤天の思惑
「じゃあ、笹くんからいってみようか?」
「すいません。よく理解できてないので、先輩方からお手本をお願いします」
「うむ。では、ボクからやろうか」
「いや、ちょいタンマ! うちからやらせてくれ」
「そらせんぱい、正気ですか?」
「天くん。辛いんだったら休んでてもいいんだよ?」
「うちがやる気出すんが、そんなに不自然か......? 心外オブ心外っすわ」
「いや、まぁ。そらせんぱいがいいならいいんですけども......」
「まぁ、どうせやんなきゃいけない空気だし。やるわ」
「うむ、天くん。頑張りたまえ」
 とかいっても、少女マンガに出てくるセリフ、芋けんぴくらいしか知んねぇんだよな。芋けんぴをアレンジしとけばいいか? 髪は同じだから適当な場所に変えればっと。
「あ、あ、あ。ちょい待ち、ボイチェン中だから。あ、あ。おけ、いくわ。あ?、芋けんぴが肩にささっちゃってる?。誰かとって?」
「いや、それはかなりの重症なんですが!?」
「どうやって、芋けんぴが肩に刺さるんだい......。天くん......」
 あ、ミスった系? なんで、こんなにディスられてんの? まぁ、適当に誤魔化せばいいか?
「多分、武装色とかそんな感じ」
「なるほど、その考え方はなかったなぁ」
「乙女の世界にそんな物騒な考え方が存在してたまりますか!!」
「あァ!?」
「覇王色には勝てなかったよ......」

* 佐藤琴の練習
「流石、天くん。ボクの想像以上だよ。ボクも負けないように励まないとね」
「次は琴センね」
「うむ、ボクも天くん以上のものご覧に入れよう」
「よ、ことせんぱーい!」
「ん、んン。それじゃあ、いくよ。熱、中、症?」
「いや、古!! もはや死語すぎてイミフだわ」
「でも、これはかなりポイント高めじゃないですか? 私、少しキュンとしましたもん」
 「だろう、だろう? 古来から現在まで伝わっているということはある程度の需要があるということだ」
「何これ? ウチだけ置いてかれてんの?」
「少女マンガだって馬鹿にならないことが証明されたな」
「ぐぬぬぬ、反論の余地がないです......」
「おいおいおい、とりま落ち着け? カルスト地形ぐらい穴だらけの理論だったぞ?」
「ウバーレ、ドリーネ、ポリエだね」
「うん。まぁ、そうなんだけど。やめて、ツッコミを解説するのはやめて」
「いや、これはモテますね。ことせんぱい!!」
「だろう?」
「なんだよ、二人揃ってかまちょなのか? もう、ぜってぇツッコまねぇからな」

* 加藤笹の絶望
「まぁ、いい。次は笹だよなぁ?」
 笹を見て静かに嘲る。策にはまったんだ。ざまーみろ。笹も自分の置かれている状況に気付く。笹が動くよりも先に釘をさす。
「といっても笹はラストだから〆てくれんだよなぁ?」
「ちょ、そらせんぱい? ハメました?」
「人聞きの悪い。ただ自分が策にはまっただけだろ?」
「そうだぞ、笹くん。諦めてやりたまえ」
「うわ、最悪だ。この先輩たち、最悪すぎる......」
「いやー、琴セン。笹が何言うか楽しみっすね」
「そうだね、笹くんには期待しているよ」
 時間が経てば経つほどまずいと感じたのか、笹は覚悟を決めて口を開いた。
「加藤笹いきます!! あなたのことがずっと前から好きでした!!」
「テンプレすぎ。ワンモア」
「これからもずっと一緒にいたいです!」
「心がねぇ。もいっちょ」
「初めて誰かを好きになりました」
「とりま、もいっかい」
「待ってください......また......? ですか?」
「あたまえよ」
「うむ、笹くんのはとても参考になるから是非とも頼む」
「じゃあ......次がラストでいいですか?」
「しゃあなしな」
「ありがと......うございます」
 噛み付いて長くなっても嫌だと思ったのかすんなりと受け入れる。顔をすこぶる嫌そうな顔をしているが。
「気付いたときからあなたに少しずつ惹かれてました、好きです」
「なぁ、笹」
「なんでしょう?」
「うち、全部録音してんだわ」
「どぉりで、これで止めさせてくれるなんてそらせんぱいにしては優しさを感じましたよ!」
「ウチの半分は優しさでできてるから」
「バファ◯ンかよ」
「ちなみに天くんの残りの半分は捏造だと聞いているが」
「もはや半分の優しささえ信じられない!!」
「ボクは水分60%、たんぱく質18%、脂肪18%、鉱物質3.5%、炭水化物0.5%で構成はれている」
「いや、ボケろ?」

* Let's ぶりっ子
「そらせんぱーい、ギャップ萌えって言葉知ってます?」
「ん?」
「だからギャップ萌えですよ?」
「ん」
 首を縦にふる。
「じゃあ、せんぱい? ぶりっ子になってください?」
「笹がいつも通りおかしくなりました。定期」
「いつも通りってどういうことですか? 後、定期も!!」
「うむ、笹くんは大概おかしいから間違ってはないぞ」
「え、私ってそんなにやばかったの?」
「それな」
「......いいです!! やばい奴でいいからぶりっ子やってください!!」
「なしよりのなし」
「まぁまぁ、そう言ってやるなよ。天くん。ボクも見たいしな」
「まぁーじで言ってるんすか? いや、ワロエナイワロエナイ」
 とはいってもこの空気感じゃやらなきゃ収集つかんか......。
「ふみゅう。はわわわわわ、みんなどうしたの? ......おい、待てよ。そんな目で見んな......」
「振っといて何ですけど、見てられませんね......」
「おい見ちゃダメだ。天くんが可哀想だろう?」
 あ?。くそ、激オコなんだが? もう、このまま突っ切ってやる。
「ほぇ?。笹ちゃんはこんな私、嫌いだよね......」
「はい、嫌いです」
「ぐっ......。琴先輩わ?、私のことぉ......。チラッ......」
「なんだろう。ボクには君を傷つける単語以外浮かんでこないや。ごめんね」
「貴様らぁ?? 床を這いつくばってぇ?。ふぅ、許しを請うといいの?」
「「申し訳ありませんでした」」

* 恋とはさりげなさ
「うち、思うんだけど。あんたら、もっと慎ましくした方がいいんじゃない?」
「といいますと?」
「うーん、何て言えばいいか分からんけど。もっとさりげなくアピールした方がいいんかなって」
「確かにがっついている様に見えるのはいい印象を与えないかもしれないね」
「なるほど、勉強になります!」
「うむ、ボクらでも実践してみよう。さりげなく、お互いに気を使ってみよう」
 すぐに沈黙。いつもどれだけ好き放題しているかが分かる。しゃあない、うちが切り出すか。
「クッキー、食べなよ」
 そう言って机の上に置く。一つ一つが小入りになっているやつだ。そんなにさりげなくはないけど導入としてはいいんじゃない?
「ボクもジャボチカバを持ってきてるんだ。みんな、あげるよ」
「なんでよ」
「私は......飲みかけのお茶を提供します」
「逆に飲むのに気ぃ使うわ」
「ふむ、ところで天くん。勉強で分からないところはないかい?」
「あぁ、そういうのっす。もし良かったら今度、教えてください」
「構わないよ」
「先輩方、お茶入れたので飲んでください?」
「その飲みかけから入れられるのを目の前で見てたのに飲めと?」
「いただこう」
「わーお、ファビュラス」
「そうですよ、出されたものは黙って飲むのが気遣いってやつですよ!」
 目の前にあるクッキーを一袋掴む。そして、握りつぶす。
「ほら、笹。食べなよ」
「まさに因果応報だね」

* 告白予行練習
 告白の際にキョドッてたらダサいという琴センの提案で二人一組をローテで回して告白練習をすることにした。
「笹くん、ボクは君のことが好きみたいだ。ボクのものになりなよ!」
「こと......せんぱい......!」
「すまない、ものという表現は失礼だったね。ボクと番になりなよ」
「いやです?」
「結婚したのか......ボク以外のやつと......」
「というか逆にセンスなくなりましたよ!!」
 琴センの告白は失敗終わる。なんだよ、ここ。いのちだいじにのコマンドないの? ガンガンいこうぜしか見つからないんだけど。
「次は私の番ですね」
 笹がこちらに向き直る。だりぃす。
「私はそらせんぱいのことが好きです!!」
「あァ? なんで? うち、こんなんだよ?」
「関係ないですよ。だって、好きになっちゃったんですもん」
「ふーん、やるじゃん」
「いや、なんで某プリンスになるんですか!?」
「いや、そういうんじゃなくて。これは、その」
「あ、照れてるんですね! かわいい?」
「  終わり終わり!」
「また、後で答えを聞かせてくださいね。せーんぱい?」
 あいつ、後でボコす。
「さぁ、天くん。ボクに思いの丈をぶつけたまえ」
「はぁー。まじっすか?」
「ここまできてやらないということはないだろうね?」
「やりますやりますてば」
「よろしい」
「ふぅ。じゃっ、いきます。初めて見たときから好きでした。もしよければ傍にいてくれませんか?」
 沈黙。思っていた通りに出来たのでよしとするか。
「......天くん。見損なったよ......」
「そんなの、そらせんぱいじゃないです」
「君はキャラを捨ててまで男を取るのか......!」
「そんなの見たくなかったです......」
「いや、ここ。そういう部活じゃね?」
「ですよね?」


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