貴方のカオが好きなだけ

おっかー



 日本のとある学校のとある教室。廊下側の窓際。三人の女生徒が1つの机を囲んで談笑している。食べ終わった弁当を端に寄せて、残りの昼休みはここで過ごすようだ。楽しそうで何よりです。そこ私の席だけど。食堂から帰ってきたら占拠されてたけど。何も文句なんてございませんよ。朝日、馬場、白野っていったらうちのクラスのドンだからね。別に皆さんいい人だけどね、ちょっと下々の輩は話しかけにくいのよね。三人ともヒロインって感じ。類は友を呼ぶのかね。さて、平民は図書室で時間潰そ。

貴方の容姿(カオ)が好きなだけ
 「朝日はとても肌が綺麗ね。私なんかそばかす顔だし、近くに並ぶと恥ずかしいわ」
「ちょっとやめてよ白野。そばかすなんかメイクでどうとでもなるし、それ自体だってチャームポイントじゃない」
「フォローとして受け取っておくわ」
「でも朝日ほんと白いよねー。陸上部なのにさ。おまけに背も高ければスタイルもいい。スーパーモデルの遺伝子は偉大だねえ」
「確かに朝日はスタイルも素晴らしいけれど、背は普通よ?馬場が小さいからそう思うんじゃないの?」
「白野、それ禁句」
「ふふふ、冗談よ。馬場は小柄で可愛らしいわ」
朝日は容姿を褒められることが多い。正確には、褒められるか、モデルの母と比べられるか、の二択である。朝日が物心ついた時からそうだった。幼稚園の先生はいつもママに似てカワイイわね、将来が楽しみねと言った。朝日はそれが嬉しかった。何もしなくても褒めてもらえる、可愛がってもらえる。しかし、成長すると、周りからの評価は、より厳しくなった。朝日は中学生の頃、彼氏に振られたことがある。珍しいことでもない。何事にも終わりは付き物だ。問題は、振られ方のほうだった。俺、お前の母さんのファンなんだよな。それでお前と付き合ったのに。でもやっぱお前の母さんのほうが美人だよなあ。冷めたし、もう別れよう。朝日はそれから1週間学校を休んだ。食事ものどを通らず、夜も眠れなかった。それほどまでに朝日はショックを受けた。そして誓った。二度と容姿で自分を否定させないと。朝日は努力を惜しまなかった。スタイルのために陸上部に入った。練習中日焼けしないように休憩ごとに日焼け止めを塗り直した。お小遣いをはたいて月一回ヘアサロンに通い、ネイルサロンにも足を運ぶ。残りのお小遣いはすべてメイクやファッションに注ぎ込んだ。それでも朝日は満足しなかった。安心しなかったといってもいい。朝日が仕上げに選んだのが、馬場、白野の二人だった。言うまでもなく引き立て役だ。白野のそばかすは朝日の白いきめ細やかな肌をより美しく魅せ、馬場の低身長は朝日にはどうしようもない身長を誤魔化した。
朝日は二人のことが大好きだ。

貴方の面子(カオ)が好きなだけ
 「昨日、朝日のお母さんテレビ出てたよね。相変わらずすっごいキレーだった。あれでうちのオカンと同い年なんて信じたくないわ」
「本当に美しい方よね。多忙なのにちゃんとケアして。そこまでやれとは言わないけれど、うちの母も見習ってほしいわ」
「白野のお母さんお医者さんでしょ?しかも凄腕外科医。ママよりずっと忙しいだろうし、自分の外見気にしてる暇ないんじゃない?カッコイイよね、女医さん」
「白野もお医者さんになるの?白野めちゃくちゃ頭いいし。この前の中間テストも1位じゃなかった?」
「テスト期間中ずっとあたしと馬場に勉強教えてくれてたのにね」
「人に教えるってこちらも結構勉強になるのよ」
馬場は三人の中で少し異端な存在だ。他の二人のようにはっきりした特徴がない。朝日は母親がモデルで、本人も美人であるし、白野は医者一家で、本人も成績優秀だ。馬場は特筆すべき点がない。これは馬場自身が意図的にそう見せているのだ。馬場は絵を描くのが得意だ。美術的な絵も描けるが、好きなのは漫画の絵だ。今でも家に帰ればすぐにスケッチブックを開き、描いている。中学校までは、学校でも暇を見つけては描いていた。が、高校ではスケッチブックを持ってきたことすらない。原因は単純かつ在り来たりで、中学でいじめに遭ったことだ。クラスの中心的な生徒に絵を馬鹿にされ、それに反抗したのがきっかけだった。その生徒はクラスメイトを巻き込んで馬場を無視したり、嫌がらせをしたりした。主犯の生徒に逆らってまで馬場を助ける者は誰もいなかった。当たり前だ。わざわざ自分の立場を悪化させたくはない。結局いじめは卒業まで続き、馬場が中学から遠い高校に進学したことで終結した。馬場が二人とつるむ理由はここにある。クラスの上位的な立場にある者には誰も逆らえない。彼彼女らの顔色を窺うくらいなら、いっそ自分もそちら側のふりをすればいい。おかげで、高校ではスクールカースト関連の苦悩にぶつかったことはない。
馬場は二人のことが大好きだ。
貴方の言動(カオ)が好きなだけ
 「そういえば、もうちょっとで期末じゃん?今回もよろしくお願いします、白野先生!」
「白野教えるの上手いよね。正直授業より全然分かりやすい。お医者さんじゃなくて教師も似合うよね」
「おだてても何も出ないわよ。それならいつも通り放課後、教室で勉強会しようかしら」
「毎回ほんとにありがとね」
「あたし白野のおかげで赤点免れてるから」
「たまに免れきれてないけどね」
「うるさい」
白野は三きょうだいの末子だ。上の兄は研修医、下の兄は医学生。白野自身もまた、医学の道に進むことを嘱望されている。いや、されていた。確かに白野はクラスで順位の出る定期試験は1位だが、学年全体の校内模試ではもちろん上位ではあるものの1位ではない。ましてや全国規模の模試などでは、もちろん高得点だが上位とも呼べなくなってしまう。そのことが、白野の家族を失望させた。白野はクラスの中でこそ羨望の対象だが、家では一転嘲笑の的なのだ。しかも、中途半端に進学校だからか、クラスメイトの中には白野をライバル視したり、白野と兄を比べこき下ろしたりする者もいる。白野にとって家も学校も自尊心を傷つける外敵なのである。その点、二人は敵陣に囲まれた補給地のような存在だった。朝日は美容に頭がいっぱいで成績争いにはまるで関心が無く、馬場は白野のそばにいることが重要なのでわざわざ白野の不利になるようなことはしない。さらには、二人は白野を頼り、褒め称えてくれる。白野は二人を眺めながら優越感に浸り、傷ついた自尊心を回復させる。
白野は二人のことが大好きだ。

 はー、適当に選んだ小説けっこうおもしろかったな。予鈴鳴ったしそろそろ教室に帰ろうか。あの三人、どんな話してたんだろ?オシャレ系?賢い系?ま、私には縁のない話か。


さわらび120へ戻る
さわらびへ戻る
戻る