エゴイズム

アリス




 神さまが遥か高くから人間界を見下ろしていました。まだ、神さまになったばかりで毎日一生懸命働いています。
 そのまま神さまが下を眺めていると、死にかけの老人を見つけました。老人は病院の一室で眠りこけていました。その老人をよく見てみると、神様が人間界に降りて修行している際にお世話になった老人と似ていました。神さまが人間界に行ったのは随分と前の話なので、同じ老人ではありませんが、神さまはその老人に少し愛着が湧きました。そして、神さまは力を使って老人の過去を覗いてみることにしました。
 その老人の人生はひどく悲惨なものでした。若い頃はいじめにあい、早くに親を亡くしました。それでも挫けずに一生懸命に勉強し、いい大学に進学しました。その後、就職はできたものの仕事は上手くいかず、周りの人から馬鹿にされていました。挙げ句の果てには長年付き合っていた最愛の彼女でさえも他人に取られてしまいました。
 老人は今にも死にそうで、走馬灯を見ています。神さまはせめて、走馬灯の中だけでも幸せにしてやろうと思いました。もう過去は変えられないけども思い出の中なら。そう思い、力を使おうとすると友達に止められました。
 それはお前のエゴじゃないのか。そんな友達の言葉が刺さりました。
 友達は続けて言います。あの老人はどれだけ苦しくても自殺という道を選ばなかった。どれだけ辛いことがあっても生きてきた。
 這いつくばってでも前に進んだことは悪いことか。悔しい思いをしながらでも生きたことは悪いことかと。神さまがしようとしているのはそれを全部無かったことにするのと同じだと。
 神さまは自分の行為が酷く偽善的なものに感じました。そうこう考えているうちに、老人は死んでしまいました。
 老人に最後の思い出として、作り変えた走馬灯を見せてあげるが悪いこととは思いません。だけど、いいこととも思えなくなりました。
 
 
 
ねぇ、幸せってなんなんですか?


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