四兄弟、声と声

竹原桜姫



*ただいま、みんな

「ただいまー」
「姉ちゃんお帰りー」
「あれ、ヒロは?」
「遊びに行った」
「酷い弟や。せっかく私が帰ってきたというのに......」
「ホンマにな」
「それに引きかえ、相変わらず変わらずランは......」
「遊びにも行かずに家でのんびり」
「たいそい(面倒くさい)から」
「その通り」
「少しは動きな。それより、あいつにも挨拶せんといかん。ちょっと待っててな、すぐ行くけん」
「おーう」


「タカ、帰ってきたで。......正月以来やな」


「ただいまー」
「薄情な弟よ、お帰り」
「姉ちゃーーーん」
「そんなに感動せんでも。それより、なんで私が帰ってくる日にわざわざ遊びに行ったんや?」
「別にええやん。そもそも高橋に誘われたんよ。俺からじゃないし」
「大声で姉ちゃーーんって叫ぶぐらい感動してるんだったら、その日ぐらい家にいてもいいと思うんよ」
「はいはい。あれ、ラン姉は?」
「お風呂入ってる。もうすぐ出るはず」
「にーちゃんに挨拶した?」
「したした」
「にーちゃんのとこにお菓子あった?」
「アンタがいない間に買ったであろうチョコシューが一袋。十二個入りのやつ」
「やった!」
「自分で見たほうが早いのに......」
「ええやん別に」
「それより風呂に入って。ランも出たみたいだし」
「了解」
 
*タカとヒロとシュークリーム、そしてゲーム

「にーちゃんからシュークリームもらってきた」
「ちゃんと食べてもいいか聞いた? 頭下げた?」
「したに決まってるやろ」
「アンタの言うことは信用ならん。前に私のビーフジャーキー勝手に食べたやん」
「ごめんなさい」
「名前まで書いてたのに」
「ごめんって言ってるやん」
「食べ物の恨みは恐ろしいんやで」
「わかっとるって。......それより、ゲームやる?」
「何のやつ」
「『Lとゴーストタウン2」ってやつ」
「おもろいやつやん。やるからソフトとゲーム機用意しといて」
「了解」
「それから」
「何?」
「シュークリーム一個ちょうだい」
「おう」

*ランとヒロの勉強事情

「数学の授業面白いんよ」
「そうなん」
「方程式楽しい」
「そうかぁ」
「英語は嫌。全然わからんし。体育も嫌。走らされるもん」
「そういや母さんが言ってたわ、ランは数学の授業だけいきいきしてるって」
「そのほかの授業はたいそいんよ。プールは別やけど」
「真面目に受けような、授業ぐらい」
「えー」
「じゃないと、ヒロみたいになるで。......ほら、都道府県覚えてないけん父さんがカンカンや」
「ホンマや。......あ、正座させられた」
「駄目だこりゃ。それより、高校でも水泳があるとは。羨ましい限りや」
「六月からなんだって。回数は少ないみたいだけど」
「いいなぁー」
「楽しみ。今日水着買いに行くって」
「知っとる。どうしようかなぁ、私も行こうかな。ちょっと今日はしんどいんよね」


「外出たいよぉ」
「ちゃんと勉強してないけんお留守番させられるんやで。あんたの勉強を見る私の身にもなりなさい」
「ちゃんと勉強してるって」
「嘘つけ。課題プリント十枚隠してたやん。中学生にもなってこんなことしてたらあかんで」
「はいはーい」
「はいは一回な。ほら、ここ、青森の右下にあるのは?」
「福島県?」
「違う」
「何なんよ? ......福山?」
「そんな県はない」
「ありそうやん」
「ないもんはないんや! 大体これは何なん? なんで宮城と山口が四つずつあるん? 宮城と山口はいつの間に勢力伸ばしたんや?」
「わからんかったけん適当に書いただけだって。それに姉ちゃんの彼氏......」
「関係ないわそんなん! 確かに山口出身やけど! あんたもう中学生なのにこれはないで。四十七個あって合っとんの十五個もないやん」
「ぶー」
「そりゃ父さんも匙を投げるわ。今日のオヤツは無しやけんな。タカのを勝手に取るなよ?」
「何で姉ちゃんが決めるんよ」
「何となくや」

*ランの水着事情

「姉ちゃん、どうしよ」
「どした?」
「水着が......入らんかった!」
「まじで」
「ぷー!」
「変な声をあげるなって。まさか、今日買ってきたやつ?」
「うん......」
「......まじで?」
「うん。試しに着てって言われたから着たら......ダメだった」
「返品はできるんか?」
「母さんに怒られる......」
「話を聞け。とりあえず母さんに言わないかん。今どこや? ベランダか?」
「トイレ行っとる。長い」
「知らんがな」
「もう一生出てこんかったらええのに」
「そんなんで怒らんって。それより、サイズ自体は合ってそうなのに入らんかったんか。どこがきつかった?」
「お腹......」
「意外やな。そんなに食べているわけでもないのに不思議な話や」
「......」
「ほら、母さん出てきたで。早く事情を説明せな」
「やだ。面倒くさい」
「自分で動いて報告しなさい」
「たいそい」
「......全然意外じゃなかったわ」

*私とヒロとゲームとテレノシン

「姉ちゃん、ゲーム進んでる?」
「大分な。めっちゃ面白いなこれ。......あ、行き止まり」
「こっちに裏道あるで。アイテム使ってテレテレ族の屋敷の前まで行くと......」
「ほんまや。行けた行けた。あ、......お? え? ひゃはははは」
「......ぷふっ」
「"テレノシン"だって。名前が、そのまんま過ぎて、ひぃ」
「あはははは。姉ちゃん、やられる、やられるって」
「もう大丈夫や。後はこいつの動きを止めて、っと」
「おぉー、きたー! 倒せ倒せー」
「わかってるって」
「お、おっ。......やったー!」
「どやぁ」

*明日を待つ一、三、四番目

「明日はお出かけやで。早く寝るんや」
「はーい」
「明日は朝の涼しいうちにお墓詣り、午後からは琴宮公園に行きます」
「えー!!」
「あんたは一昨日水着入らん言って返品してもらったやん。少しは運動しな」
「やーだぁーー」
「じゃあ英語でもやるかい? もうじきテストや」
「それもやだ」
「なら、少しは動け」
「むーーーー」


「明日公園行くんやろ? 俺は砂浜を走る。邪魔せんといてな」
「誰がするかい」
「姉ちゃんも行くんやろ?」
「もう体調も元通りや。とりあえずはランを見張るわ」
「お願いな。あんなぐーたらで水着も着れんラン姉は嫌だ」
「わかった。何とかする」
「頼むで」
「了解。その前に墓参りもあるし、さっさと休みな」
「おう。お休みー」

*私とランの運動計画

「歩け歩け、妹よ」
「もうヤダ、歩きたくない。たいそい。朝墓参りもしたやん」
「いっつも運動してないって母さんが言ってたやん。紺ぐらい動かないかん」
「疲れた。たいそい」
「水着返品したのはどこの誰だっけ? ......痛い痛い。殴るのはあかんって」
「ふん!」
「ごめんって。それより、歩くのもたいそいって言うのはちょっとばかし問題だと姉ちゃんは思うわけよ」
「あっそ」
「歩くのが嫌なら走ってもええんやで?」
「もっとヤダ」
「ほら、海が見えてきたで。もう少しや」
「いえーい」
「やればできるやん。明日からも頑張るんやで」
「ちょっとはな」
「......ちょっとでええけん、な?」
「おう」

*三人とも、また会おう

「姉ちゃーーーーーん。帰らんといてーーーーー!」
「明日から授業なの! 単位落としたくないもん」
「やだーーーーーー! 今度こそ日本地図覚えるけん!」
「休みの間にちゃんと覚えるって言ったやん!」
「んなもん簡単に覚えられるかーーー!」
「頑張って教えたのに!」
「山口と福島は覚えたやん!」
「やかましい! テストで悪い点取らんでよ」
「わかっとるって」
「ランもちょっとは運動しなよ。あと勉強も」
「わかったって」
「たいそいばっかり言ってたらダメやで」
「えーーー」
「えー、やない」
「あとちょっとで出な間に合わんな......。ちょっとタカに挨拶したら出るわ」
「わかったー」
「元気でな、姉ちゃん」
「またお土産持って帰ってくるけん!」
「次は饅頭な! 約束やで」
「ヒロこそちゃんと勉強しなよ」
「わかった」

*君の声は聞こえない

「なあ、タカ。あんたももう十八なんやな。時間がたつのは早いな」
「......」
「今回の帰省は穏やかだったわ。久々にお墓にも行ったし」
「......。」
「ランもヒロも平和に過ごしているみたいだし、父さんも母さんも相変わらずだし、しばらくはばたばたしなくて済みそうや」
「......」
「本当に、しばらく家にいない間、大きな出来事が起こらんでよかったわ。この前家に帰ってきたときはじーちゃんのお通夜にお葬式に大変だったし。あれは疲れた」
「......」
「そっちも賑やかになったやろ? 私らはまだ行けんけど、取り合えず元気に過ごしてな」
「......」
「それにしても最近暑くなってきたなぁ。ま、体調崩さんように気を付けるわ。じゃあ、また今度はお盆の時にでも」
「......」
「父さんと母さんと......、あの二人のこと、ちゃんと見守ってな、タカ」



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