空を泳ぐ

藩荷原課











基準点
 ざざん、ざざん、と
 風が寄せては帰っていく
 ふうわり、ふうわり
 泡が浮いて星になる
 雲は魚だ、気流は潮だ
 ならあの太陽はなんだろう
 オゾンに透かして見る太陽は
 ゆらゆらと水面に漂う光だろうか
 いいや、やっぱり太陽は太陽だ
 変わらない太陽系の基準点.........
這い泥
 ヒトのご先祖様はきっと悪いことをした
 神様のリンゴでも盗み食いしたんだろう
 おかげで僕らには何もない
 キラキラ光る宝石のような鱗がない
 大気を掻く翼もない
 だから僕らは深海を這うのさ
 まあるい海底でお月様を見上げながら
 泥を掻き分けて、泥に埋もれて
 いつかお月様に会いに行くため
 泥を集めて、泥を積み上げて
 うねりに崩されて、また繰り返して
 遠い遠いお月様まで
 あと、384,440km








沈む森
 神のいない森が沈んだ
 満月の夜のことに
 水底で揺れる蒼い木々
 水面で揺れる白い月光
 僕は真裸になり、その木々の間を
 天魚のように泳ぐだろう




ある物書きの死
 書きたいことがあるのです
 書けないことがあるのです
 書きたかったことがあるのです
 書けなかったことがあるのです
 頭の中は嵐のように渦巻いているのに
 ペンは錨を下ろした船のように
 何かにひっかかり動かなかったのです
 だから彼は一本の鉛筆になり
 今も言葉の海で必死にもがいているのです

セイレーン
 水平線の彼方から
 僕を呼ぶ声がする
 鎖に絡まった愛の言葉が
 風に溶けて僕の部屋へ
 空と海の間の色の声が
 僕を切なさで包む
 セイレーン、セイレーン
 未だに運命の交わらない恋人よ
 君の白い頬を、僕の血潮赤く染めたい
 そう囁けば、君は笑ってくれるだろうか











勝虫
 夕焼け小焼けで勝虫たちが
 地獄に向かって飛んで行く
 祖国のために、祖国のために
 おーい君たち、知っているかい
 もう戻ってこられないんだぜ
 芒の野原を滑走路に
 飛んで行く勝虫たち
 声も、もう聞こえない













少女の歌
 地平線まで連なる丘陵で
 少女が歌を歌っている
 遥かなる神々の戦いの歌を
 働き者の鍛冶屋の歌を
 土の中の種の歌を
 本の海を行くガレー船の歌を
 夜通し続く祭りの踊りの歌を
 森の奥で待つ狼の歌を
 洞窟に眠る魔女のペンダントの歌を
 荒野をさ迷う旅人の歌を
 檻の中に咲く花の歌を
 遠い異国の姫の歌を
 廃城に棲む竜の息吹の歌を
 宝石が湧き出る泉の歌を
 霧雨に霞む騎士の悲しみの歌を
 雲の上にある王国の歌を
 秋風に揺れる麦を刈り取る歌を
 天を行く鷹の歌を
 そして何より、恋の歌を
 それは空を泳ぎ
 いつかあなたに届く歌
スカイダイバー
 少年の形をした勇気たちが
 青い青い空へ向かって
 真っ逆さまに落ちていく
 雲を突き抜け オゾンを潜り
 星の海を自在に泳ぐ
 最強無敵の少年たちは
 いつだって彼ら自身を踏んで跳ぶ
 笑って翔けろよスカイダイバー
 いつか失うその光が
 星となり 次の少年を照らすだろう


 空白
  あなたの想像力を泳がせてください
  ここでは全てが許されています


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