終わりから始めた恋

アリス


~君が笑えば~

「春になったら桜を見に行こう」
君は振り帰って私に言った。
君と桜を見るのは楽しそうだ。
そんなことは口に出さず、私はそれにただ微笑んだ。
少し前を歩く君は先のことを考えて楽しそうだ。
どうせなら、
こんな私に愛想をつかしてくれればいいのに。
そうすれば、君を傷つけないで済むのに。
あの日、君は私に言ってくれた。
「他の誰でもない君がいいんだ」
本当に嬉しかった。
だけど、それ以上に怖かった。
始めなければいい。
終わりなんて分かっているから。
それが私の本心。
私はきっと君とは桜は見れない。
私よりふさわしい人がきっと隣にいるだろう。
少しだけもやっとした気持ちになる。
でも、本来なら交わることのない運命。
私なんかでは君には釣り合わない。
私は君といるだけで満たされてしまう。
君と話していれれば満足だったのに。
なのに私は君に恋してしまった。
それ以上は望んでも仕方がないのに。
これ以上は駄目だって分かってるのに。
それがどうしようもなく悲しくて、
だけど、どこか納得してしまうんだ。
覚悟を決めたはずだったのに、
君を見るたびに心が揺らぐ。
本当にこれで良かったのか?
終わってしまう恋になんて意味はあるのか?
私がいなくなったら君はどう思うのだろうか?
きっと君は気付いてない。
「どうしたの?」
ほら、またそうやって優しくする。
ずるいよ、本当にずるい。
だから、
らしくもないのに無理やり手を握りにいくんだ。
今は君が笑えばそれでいい。
自己満足なのかもしれない。
だけど君が笑ってくれればそれだけで幸せなんだ。

~君が咲えば~

「春になったら桜を見に行こう」
少し後ろを歩く君に笑いかける。
君はそれに静かに微笑んだ。
僕といるとき、君はいつも何かを考えてるんだ。
君は僕のことなんて好きじゃないのかもしれない。
初めて会った時から何かを感じていた。
なんとなく君に話しかけた。
一人ぼっちで寂しそうな君をほっとけなかった。
だんだん君と話すのが楽しくなっていた。
別に周りにどうこう思われようが構わなかった。
君のクスッと笑う表情は僕をときめかせるには十分だった。
好きっていう感情はよく分からない。
ただ、君の側にいたいと思った。
恋っていう感情はよく知らない。
ただ、君の特別でありたいと思った。
これからも色んなことをしたい。
君と一緒にいたい。
他の誰にも抱いたことのない感情だった。
だから勇気を出して、想いを伝えた。
君は私なんかじゃ駄目だよって言った。
「他の誰でもない君がいいんだ」
僕は飾り気なく本心で語った。
君は考えて、考えて、僕と付き合ってくれた。
君が何を考えてるかは分からない。
けど、僕が君を好きだってことは変わらない。
僕が見たいのは君の笑顔だから。
だから、
君が少しでも元気になるようにおどけてみせるんだ。
「どうしたの?」
君は困ったような嬉しそうな顔で、僕の顔を覗き見る。
その仕草がどうしようもなく可愛くて、僕は
君から目をそらすんだ。 
君は僕が目をそらした瞬間にふと手を握ろうとする。
だけど、重なり合った手は触れることなく空を切る。
握れもしない手を握ろうとして君は微笑むんだ。
隣で君が咲えば、きっと桜も綺麗だ。
ただ、君といれれば幸せなんだ。


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