記憶の彼方のアイス

竹原桜姫



 一昨日は確か、始めて着るセーラー服にはしゃいでいたと思う。中学校の門の前で、父に写真を撮ってもらった。昨日は始めて一人ぼっちの誕生日を迎えた。案外寂しく思わなかったのは、少し早めの大掃除をしていたからだろう。
 そして、今日は実家の近くにあるアイスクリームの店でアイスを食べていた。青い色をしたバニラアイスは、この店一番人気だった。実際、一口食べてみると物凄く美味しい。アイスを口に運ぶ手が止まらない。外を見ると雪が降っている。店内はとても暖かく、全く気がつかなかった。その中をたくさんのカップルが歩いている。寒いのにご苦労なことで。まぁ、こんな日にアイスを食べている私も端から見ればそう思われているに違いない。実際、お腹が冷えてきている。けれど、一度は真冬に温かいところでアイスを食べるのが幼いころからの私の夢だったのだ。二十四回目のクリスマスにようやく叶えることができた。これでお腹が痛くなったとしても、私は絶対に後悔しない。
 アイスを半分食べ終わったところで、私はふと思った。今日食べた青いアイスのことを、この味を、一体いつまで覚えているのだろう。確かに私はアイスを食べている。それも、人生で一番おいしいものを。これは事実だ。だけど、昨日と一昨日の間にも、今日と昨日の間にも無数の事実は存在するわけで。「明日」になったら、青いアイスの記憶は「明日」と今日の間に消えてしまうのだろう。もったいないけれど、消えてしまうものはどうしようもない。
 「明日」は、「明日」の私は、いったいどこで何をしているのだろうか? 取るに足りないたくさんの出来事も、いくつかの叶えた夢も忘れた先で、どんな生活を送っているのだろう。そもそも、どの記憶が残るのか、いまひとつわからないままだった。もっと大切な思い出はいくつもあったはずなのに。
 けれども、考えても仕方がない。取り敢えず今は目の前のアイスを食べきってしまおう。少なくとも今は、アイスの記憶がすぐそこにあるから。私は口を大きく開けて、最後の一口を頬張った。


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