雨漏り 街田灯子 下宿のアパートの床に、水滴が落ちていた。ワンルームの廊下の、洗濯機の近くの床である。始めは気にも止めていなかった。しばらくすると、その水滴は消えた。しかし、数日後の雨の日に、再び同じ場所に、小さな水たまりが現れた。どうやらそれは天井が雨漏りしているせいだということがわかった。水たまりの上を見上げると、天井から水がしみ出しているのが見えた。 私は最上階の二階に住んでいる。屋根に原因があるのだろうか。 しかし、雨漏りだということがわかったところで、すぐに直せるわけでもない。私は忙しかったし、毎日雨が降るわけでもないと考え、しばらくは放っておくことにした。コンセントが濡れるわけではないのでよかった。とはいえ、床板を傷めるわけにいかないので、雨水を受けるために洗面器を置いた。 洗面器を置いたことで、雨漏りが解決したわけでは全くないのだが、不思議なことに、それで私は満足してしまった。もともと散らかっているせいで、床に置いた洗面台も気にならなかった。そうやって私は、天井の雨漏りのことを忘れてしまった。 しかし、こういうときに限って、雨が続くものだ。この三日間、ずっと雨だった。 やっと予定から解放された私は、余裕をもって起床した。冷蔵庫からお茶を取り出したとき、ふと、廊下に置いた洗面器に目が留まった。そういえば、ずっと忘れていたのだった。この日も雨だった。 洗面器を覗くと、なんと水がいっぱいに溜まっていた。あまり大きくない洗面器だが、けっこうな量になるのではないだろうか。 雨水が落ちる音を聞いたことはなかったので、ごくたまに天井から滴り落ちていたのだろう。私は雨水が時間をかけてここまで溜まったことに、感動すら覚えた。 水を湛えた水面器は、静かにその存在感を主張していた。私がしばらく傍で眺めていると、天井から一滴、雨水が落ちてきた。水面器に張られた水が、ゆらゆらと揺れた。 月曜日は、快晴だった。私は不動産屋に電話をして、天井の雨漏りのことを報告した。その日のうちに担当の者が来た。やはり屋根に原因があったようで、屋根で作業していた。ありがたいことに、私が費用を負担することもなく、雨漏りした天井は修理された。 もう雨漏りすることはなくなった。 今でも、古い建物の校舎や店内などにいると、大雨の日には雨漏りしているのを目にすることがある。そういうときは、不思議と穏やかな気持ちになるのだった。
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