影 街田灯子 追手から逃げていた。 狭い路地や人混みの中を、ひたすら逃げていた。しかし追手は着かず離れずの距離を保って、私を追い続けた。息が切れ、下腹が痛い。ぞんざいに吸い込むのは、冷たい外気だ。喉の奥が痺れる。しかし、立ち止まるわけにはいかなかった。 その追手は触れると氷のように冷たく、湿っていた。初めて触れたとき、その恐ろしさに手が震えた。 その追手は音もなく忍び寄り、私を脅かした。 夜になると、私は安堵する。追手が闇に紛れて、見えなくなるからだ。追手の存在がなくなるわけではないが、目に見えないということは私に安らぎを与えた。しかしそれも束の間、朝になると奴は再び現れる。私は再び逃げ始める。 道路を埋め尽くす落ち葉に足を取られ、私は滑るようにして転んだ。赤や黄色が目の前に舞うのが見えた。 もうこれ以上、追手を撒くことはできないと思った。私は逃げるのを諦めた。ゆっくりと体を起こし、足元に目を落とす。いつのまにか、闇の淵に足を踏み入れていた。無機質な闇が、そこには広がっていた。 追手は私と重なって、ひとつになっていた。
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