死がふたりを結ぶまで
秋野 優

【プロローグ:シャルラ平原の戦い】
 その日、世界は変わった。
 そんなことは後世の研究者が判断するもので、当事者はそんなこと思ってもいないことが多々ある。しかし、この日、血(シャ)染(ルラ)平原にいたすべての人が確信していた。自分たちは神話の一ページを目にしているということを。

 ノルネイス王国の兵士であるヘラオス・グリードは自らの武器である、長槍を握りしめ目の前の光景をただ呆然と見つめていた。
 それは、ヘラオスの隣にいる上官も、先ほどまでヘラオスと切り結んでいたはずのベスティア皇国の剣士でさえも、そうだった。 
 平原のちょうど真ん中。そこでは二人の男女による一騎打ちが繰り広げられようとしていた。
 片やノルネイス王国の第一王女であり、王国軍の総司令官である元帥を務めるユースティア・レィ・ノルネイス。片やベスティア皇国の第二軍を任され、現皇帝である――の右腕とも言われるセト・ガーム。両者とも今この場にいるそれぞれの軍の最高権力者だった。
 ユースティアが振るう大剣が唸りをあげてセトに迫る。半端な盾や鎧ならば一刀の下に両断するであろうその斬撃。まして、戦場に相応しくないほど軽装なセトにとってはなおさらだ。
 しかし、セトは手に持つ棍で真正面からそれを受け止める。根を裂いていく刃。そのまま、セトにもその刃が届くかに思われた。
 しかしそうはならなかった。
 ユースティアの手から感じていたはずの手ごたえが消失する。何もない虚空を切り裂いていく。そのまま、大剣は大地をえぐり取り、平原が揺れ、地面が割れる。
 体勢を崩したユースティアにセトは短槍を突き出す。先ほどまでなかったはずのそれがどこから現れたのか、そんなことを考える暇ものなく穂先がユースティアに肉薄する。
 避けようのないタイミングで繰り出された一撃。だが、こちらも届かない。その穂先がユースティアの視界に写った瞬間。宙を泳ぐ水流に槍が絡めとられ、受け流された。
 大剣が閃光のように跳ねる。今度は確かにセトの腹部を捉えた一撃。ガキンと鈍い金属音が戦場に響く。宙を舞うセト。しかし、それでも彼は無傷だった。危なげなく着地すると同時にユースティアへとナイフが飛ぶ。
  互いに致死の攻防を何十、何百、何千と繰り返す。
「・・・・・・何だよ、これ」
 思わずヘラオスの口から言葉がこぼれる。
 何が起こっているのか理解ができない。俺たちは、戦争をしに来たんじゃなかったのか? なぜこの二人は一騎打ちなんかを始めているんだ?
 混乱と共にどうしようもなく分かってしまった。この戦いに手を出すことはできない。技とか力とかの問題じゃない。生き物としての階位が違う。紅石兎(カーバンクル)は金色獅子(マンティコア)には絶対に敵わない。これはそう言った話だ。
 紅石兎は金色獅子からは逃げるしかないし、金色獅子は紅石兎のことなんて餌としてすら見ていない。目の前にいるはずなので果てしなく遠い。そう感じた。
 そして、へラオスはその直感が間違っていなかったことを知る。
 ふと、視界の端に見覚えのある何かが映った。ストゥル・フォン・パッシオ。へラオスの直属の上官である男だ。
 その顔に悲壮とさえいえるような覚悟を滲ませながら未だ戦い続ける二人の元へと駆けていく。自身を奮い立てるため雄叫びを挙げる。
 そう言えば、彼はユースティア王女の熱狂的なファンだったか。その姿を眺めながら思う。
 あ、死んだな。平原にいる誰もが数秒後に広がるであろう惨状に目を背ける。それは、セトへ元へと走るストゥルでさえも同じだった。もはや目すら瞑って突き出した一撃。
 しかし、返ってきたのは命を消し飛ばすような痛みでも肉を裂き、骨を割る嫌な感触でもない。
 目を開けストゥルが見たのは、驚愕の表情でこちらを見つめるベスティア皇国軍の姿だった。ストゥルが事態を理解する前に、背後から轟音が響く。反射的に振り返ると、そこでは何事もなかったかのように戦い続ける二人の姿。その向こうには先ほどまで自分がいたはずの王国軍がいた。
 振り返り、恐る恐る手を伸ばす。差し出された指先に何かが触れた。それは、例えるならば粘性生物(スライム)の様だった。
 指先にわずかに抵抗を感じ、込めた力が一定値を超えるとプツンと突き抜ける。突き抜けた先は、戦場の反対側だ。
 両軍のトップ同士の戦い。それは、文字通り誰にも手を出せない領域で行われているのだった。

 嫌に晴れた日だった。メネス・ヴァン・リーガードは書類から目を離し、窓の外を見つめる。視線の先は遙か北の空。
「・・・・・・ふぅ」
 一つため息を付き、再び書類へと目を走らせる。しかし、文字の上を目が滑って行くばかり。内容が一つも頭に入らない。
 その時、メネスの執務室の扉がノックされる。
「入れ」
 その音に被せるように入室を許可する。入ってきたのは、メネスの営む商会の下働きの一人だった。
 彼の手には一枚の紙が握られている。くすんだ色をしたそれは街間の情報の伝達に使われるものと同じだった。
「会長、シャルラ平原に放った者からの連絡が届きました」
「分かっている。早く読み上げろ」
 メネスは男に目を向けることなく、先を促した。その言葉を受け、男が伝達を読み上げる。
「人獣戦争は皇国が勝利。しかし、灰狼将軍セト・ガームと戦姫ユースティア・レィ・ノルネイス様は一騎打ちにより、双方共に戦死。その際、上空に不可解な光が確認されているそうです」
 自身の出身国の姫の戦死を告げる時、彼の声に少し涙の色が混ざる。国を離れているとはいえ、それは仕事の上でのこと。心は未だ王国にあるということだろう。
「そうか、ご苦労だった。後は指示通りに頼む」
 彼と出身は同じのはずのメネスは、しかし、特にその声に感情を滲ませることなく、彼に目で退室を促す。男は少し不満げな顔をしながらも、小さく頭を下げ、部屋を出る。
 男の足音が聞こえなくなったことを確認し、メネスは懐から一つの鍵を取り出す。
 その鍵を作業机の鍵穴へと差し込む。かちゃりという軽い音が鳴り、鍵が解錠される。メネスが中から取り出したのは一冊の本。それは、深緑の表紙を持つ重厚な物だった。ドラゴンの皮の表紙に金羊皮紙のページで出来たそれは、一冊でメネスのいる建物がまるまる一つ建つほどの高級品だ。
 表紙を軽く撫でる。そこで初めてメネスの顔に表情が灯った。暖かく慈愛に満ちたその表情は商会の部下には殆ど見せたことのない物だった。
 表紙を開くと、そこには一枚の絵が挟まれていた。これを先ほどの男がその絵を見たならば、酷く驚愕したことだろう。
「くくく、あいつら本当にやり遂げやがった」
 特殊な魔法を使って描かれるそれは術者が見た光景をそっくりそのまま写し取る。王国時代に王城に王国の家族画を描きに来た術者に頼み込んで、描いてもらったものだった。何千枚も複製されることになる家族画と違い、この世に三枚しかないメネスの宝物だ。
 そこに描かれていたのはメネス自身。そして、先の戦いで戦死したというセト・ガームとユースティア・レィ・ノルネシイスの三人だった。
 城壁に三人が並んでいるだけの何のことない光景だ。しかし、そこに写る彼らの表情は柔らかく、彼らが数年後には王国と皇国、そしてメネスが商会を構える共和国に分かれることになると聞いても、だれも信じないだろう。
 それほどまでに幸せそうな光景だった。
「あいつらが夢を叶えたのなら、今度は俺が自分の夢を叶える番だ」
 未だに何も書かれていない真っ白なページを開き、羽根ペンを構える。
「始めようか。『彼らのための物語』」
小さく呟いた魔法名に羽根ペンが仄かに煌めく。自らの頭の中にある光景をそのまま文章に起こせるそれはメネスがもって生まれた唯一の魔法だった。
 ペンが踊り、茜色に輝く文字が刻まれていく。

 これは、歴史の裏に隠れた話。決して表に出ることのない本当の話。この物語を読む君たちがその心の中に止め、しかして、この物語を覚えておいて欲しい。それが、私の唯一の願いだ。
 前置きはこのくらいにして本題に入ろう。
 これは、二人の大馬鹿者の世界を巻き込んだ大恋愛の話だ。


【一―一:セトの仕事】
 セト・ガームは走っていた。雨の降りしきる路地をただひたすらに。
 無秩序な増築と改装を繰り返した王都の外周街は生き物のようにその形を変える。その複雑さはよほど住み慣れた者以外にとっては迷宮以外の何者でもなかった。
 しかし、それは大通りを外れて目的の場所を目指す場合の話であり、路地を抜けることだけならば非常に簡単だった。王都の中心にそびえる王城を目指せばよいのだ。
 セトも例にもれず王城を正面に見据えて路地を駆けていた。
 もちろん、彼は習い事に遅刻しそうなわけでも、健康のために運動しているわけでもない。
 逃げているのだった。
 歯の根が合わないほどにがたがたと震え、顔を流した涙で濡らし、逃げるしかできなかった自分の弱さを呪いながら。それでも、走るのだ。
 それが今のセトに出来うる唯一のことなのだから。それが、彼の義兄のもしかしたら最期の願いかも知れないのだから。
 彼の身になにが起こったのか。それは少し前に遡る。

 セト・ガームは狼の獣人である。正確に言えば白金狼と言うノルネイス王国の東端にある山に住むという狼の血を引いていると言われている。
 一般に獣人は獣としての特徴が大きくでるほど血が濃いとされる。そんな中でセトが人間と特徴を異とする部分は頭頂部にある灰色の耳と同色の尻尾くらいのものであった。彼の義兄はほとんど二足歩行する獣にしか見えないのにも関わらずである。
 しかし、その義兄は血の繋がりのないセトのこと弟と言い、他の住人達もまるで家族のように接してくれる。いや、彼らはセトにとって紛れもなく家族だった。
 貧しいながらも幸せな暮らし。それで、セトは満足だったのだ。
 その幸せが崩れ去ったのが、今日だった。
 言霊。人間の精霊術師が使うというそれが本当にあるのならば、始まりは今朝の会話だった。

「獣人殺し?」
 セトはシオンの言葉に朝食のパンを口には運びながら、首を傾げる。
 全く聞いたことがないとでも言いたげな弟分の姿に苦笑しながら、シオンは続けた。
「あくまで噂だけどな。ここから北に少し行ったところの部落がほんの数人を残して全滅したとか、なんとか。珍しく騎士様が路地まで入ってきたなんて話もある」
 『騎士様』そう口にした時にシオンの口元に歪んだ笑みが浮かぶ。
 それに籠められたのは、普段は出張ってこない癖にと言う皮肉と見つかるはずが無いという嘲りだった。
 そうして笑うとシオンの口元から鋭い牙が覗く。それは、人間の者とは明らかに違い肉食動物のそれだった。
「ふーん、物騒な話だね。気を付けないと」
「おう、噂はあくまで噂だが用心に越したことはないからな」
 シオンもパンを手にし、スープに浸し食べ始める。この日の朝食はファルと呼ばれる握り拳ほどの大きさの堅いパンにくず野菜のスープだ。成長真っ盛りであるセトとしては少々物足りないメニューだが、獣人の食事としてはこの程度が標準だった。
 そこで会話が途切れる。家に響くのは無機質な食事の音だけ。そんな中、ことりとシオンが食器を置く音が嫌に響いた。
「……仕事はどうだ?」
「可もなく不可もなくってとこだね。人は選んでやってるから心配しなくてもいいよ」
 躊躇うように切り出したシオンに対して、セトはその配慮さえも切り捨てるように返す。
「でもな、俺はお前にはまっとうな――」
「ごちそうさま。俺はもう行くから」
その言葉を遮り、手早く目の前の食事を片付けると早々に席を立つ。
 壁にかけていたフードを纏い、玄関へと向かう。顔を隠すようにそれを目深にかぶった。背中にシオンの視線を感じながら、家を後にする。
 未だ太陽が昇りきらない早朝にも関わらず、獣人街にはいたる所に住民の姿があり、にわかににぎわっていた。
 そんな中をセトは歩いていく。
 体を丸め、視線を下に向け、ふらふらと足元が覚束ないとでも言うように歩く。薄汚れた服装も相まってそれはまるで浮浪者の様だった。
 そうしてたどり着いたのは、獣人街と外周街の境。比較的、入り組んでいない路地の一つだった。
徐々に増えてきた人通りに目を走らせ、獲物を見定める。狙うのは旅行者だ。特に憧れの王都に目を輝かせ、周囲への注意が疎かになっている者だ。
本当に馬鹿だとセトは思う。知らないはずがないのだ。王都の外周街が無秩序な拡張を繰り返していることも、それを抜けた先にあるのが獣人街であるということも。
それにも拘らず、間の抜けた、まるで夢に満ち溢れているとでもいうような顔で街を歩く人々がセトは大嫌いだった。
そうして見つけたのが、目の前を歩く一人の男性だった。仕立ての良い黒いマントを身に着け、周囲を興味深そうに見まわしている。この国――ノルネイス王国では珍しい金髪だから多分この国の人間ではないだろうこともその判断に拍車をかけた。
 獲物に近づき、横を抜き去る。完全に獲物の前に出た時にはセトの手には心地よい重みを伝える財布が握られていた。もちろん、先ほどの男性の物である。このまま横道に入り、気付かれることなくこの場を離れることが出来ればそれで今日の仕事は終わりだ。
 そうして、方向を変えようとした時、
「すいません。ちょっとよろしいでしょうか?」
 背後から声がかかった。
 セトの体に緊張が走る。逃げるべきか。それとも何事もなかったかのように対応すべきか。悩んだのは一瞬。軽くフードを引っ張り、ゆっくりと振り返った。
「何?」
 ぶっきらぼうに、呼び止められたことへの不快感がにじみ出るように言葉を発する。
「すいません。道をお尋ねしたいのです」
 改めて正面から見ると、男は本当にきれいな顔をしていた。輝くような金髪に細められた目から僅かにのぞく紅の瞳。そして、そこではじめて気付いたが、両の手に手袋をはめ、肌が日に当たらないようにしているようだった。たぶんどこかの裕福な家の跡取りとかそんなところだろうと当たりをつける。
 申し訳なさそうに笑うその表情は含むところは何もないように見えた。掏(す)ったことがばれた訳ではないらしい。ほんの少し安心しながら、小さく頷く。
「ありがとうございます。こちらの店なのですが」
 男が懐から差し出した地図を覗き込み、指さすところを見る。そこは王都の中でも特に大きな宿屋であり、セトの一か月の収入よりも一日の宿泊料が高い。
 やはり、金持ちか。的中したらしい自身の予想に懐の財布の中身にも期待が高まる。
「王城を目指してまっすぐ進む。そうしたら、この大きな道に出る。右にまっすぐ進めば着く」
 言葉少なに道を教え、地図から視線を放す。男は納得いったように何度も頷き、小さく笑った。
「なるほど、そんなに簡単にたどり着けたのですね。恥ずかしながら、出歩くことに慣れていないもので」
「そう。じゃあ、これで」
 話を打ち切り、踵を返す。早くこの場を立ち去りたい。そう思っての行動だったが、男には伝わらなかったらしい。セトの背中に再び声がかかる。
「あの、よろしければ、お礼をさせていただけませんか? それに、また迷ってしまうかもしれないので、案内して欲しいのです」
「急ぐから」
 振り返ることなく答え足を踏みだそうとした。
「では、財布。返していただけますか?」
 思考停止。気付いていないと断じていただけに、驚きも大きかった。しかし、復活も早い。すぐに我に返り、駆け出す。
いくら血が薄いとはいえセトは獣人である。並の人間、ましてやろくに走ったこともないであろう金持ちのぼんぼんに追いつかれるほど足は遅くない。まして、横道に入ってしまえば複雑に入り組んだ道が追いかける足をより遅くしてくれる。そう考えての奔走であった。
 頭の中に路地の地図を必死に思い浮かべながら、右に左に曲がり、時に道なき道、というより屋根の上を駆ける。獣人の身体能力をもってして初めて行えることだった。
 そうして、走り続けセトが立ち止まったのはもう昼も間近になった頃だった。滴り落ちる汗をぬぐい、懐の財布を確かめる。相変わらずずしりと重いそれを開き、中を覗き込むとそこには十枚を超える金貨が入っていた。
「うっし」
 小さく歓声を上げる。思わず頬が緩んだ。実にシオンとセトが二月は暮らしていける額である。これでシオンにも褒めてもらえるかもしれない。そう思うと家にへ向かう足も速くなった。
 後から振り返れば、最悪の結末を回避するための分岐点はここだった。例えば、この時、男にターゲットを合わせなければ、最悪の事態は回避できたのかもしれない。
 しかし、その仮定はもはや詮無き事。セトは出遭ってしまったのだから。殺害人数百人以上。それまで獣人のことに対して無関心を貫いてきた騎士団が初めて捜査に乗り出した殺人鬼。通称『獣人殺し』に。


【一―二:獣人殺し】
「ただいま」
 太陽が真南を過ぎる少し前、家へと帰ってきたセトは玄関をくぐりながら声をかける。
 しかし、家の中から返事が返ってくることはなかった。
「シオン?」
 いつもならばこの時間帯はシオンも昼食を食べるために家に帰っているはずだった。
 しんと静まり返った家の中を見て周り、やはりシオンが家に居ないことを確かめる。
「仕事場かな?」
 午前中の仕事が長引いているのだろうか。そうか考えて、ちらりと仕事場の方を見る。
 建ち並ぶ建物の隙間から覗き見る空の向こうには黒々とした雲が迫ってきていた。一雨くるかも知れない。
「・・・・・・迎えに行ってあげるか」
 玄関を見るとそこに並ぶ二つの傘。片方はセトの物、そしてもう一方はシオンの物だ。家を出る時に傘を持って行かなかったらしい。どちらも、ゴミ捨て場で拾ったため、ボロも良いとこだが、無いよりはましというものだ。
 二本の傘を持ち、シオンの仕事場へと続く道を歩く。
 シオンは鍛冶師だ。と言っても、農具や刃物を一から鍛えるのではなく、捨てられていた物や、壊れた物を鍛え直すことが専門だが。
 その仕事場である鍛冶場は獣人街を少し外れた所にある。鍛冶場、とは言うが、その実、地べたに炉を作って、金床を置いただけだ。申し訳程度の囲いを付けてはいるが、屋根はない。雨など降ろうものならその日はもはや仕事にならなくなってしまう。
 仕事に集中している彼は空模様のことなど気にしてはいないだろう。
セトたちの住む家と鍛冶場との距離は歩いて十五分ほど。立ち並ぶ小さな家ともいえないような建物の間を抜け、一路目的地を目指す。
ちょうど真ん中あたりまで歩いた時、セトはふと違和感を覚えた。
 音が、しないのだ。獣人街は小さな集落だ。そこに住む住民の数は五十を越えない。昼過ぎということもあり、全員が獣人街に居るわけではない。なのだが、あまりにも静かすぎる。
 あまりに薄い壁ではその音が漏れ出すのを防ぐことは出来ない。普段ならば、あちこちから会話や生活音が聞こえてくるはずだ。なのに、セトの足音を除き、なんの音も聞こえないのだ。
 どこかおかしな状況にセトの足が速くなる。その歩みはどんどん速くなり、最後には駆け足になっていた。
 獣人街を駆け抜けていく。二つ先の十字路。そこを曲がった突き当りの広場がシオンがいるはずの鍛冶場だった。
 手前の十字路を通り過ぎ、勢いそのままに次の十字路を曲がる。 
そうしてセトの視界に写ったのは、一心に炎を見つめる、シオンの姿だった。
 荒い息を吐き出し、セトは初めて自分が殆ど呼吸もせずに走っていたことに気がついた。
 足をゆるめ、シオンの元へと近づく。よほど集中しているらしく、セトの接近に気づく気配は全くなかった。
 鍛冶場の敷地に入った時、ようやくシオンは何者かが自分のテリトリーに入ったことに気付き、顔を上げた。
「っと、誰かと思ったら、セトか。危うく、炭投げつけるところだった」
 そう言って、炭挟みをその場に置いた。その先には赤々と光る木炭が挟まれていた。
「どうした、汗だくだぞ?」
「走ってきたから。それより、これ」
 持ってきた傘を差し出す。シオンはそれを受け取り、空を見上げる。その空に広がる黒い雲はセトが見上げたときよりも、その範囲を広げていた。
「おお、確かに降りそうだ。こりゃ、今日は仕事終わりだな」
「うん、早く帰ろう」
 シオンの姿を確認して、一度はその緊張を解いたセトだったが、彼は依然としてどこか嫌な空気を感じたままだった。いつもの様に憎まれ口をたたくこともなく、シオンの腕を引き、帰宅を促す。
 そんなセトの姿に少し面食らいながら引かれた腕に逆らわず歩き始める。
「お、おう。早くしないと、雨降り出しちまうもんな。ちょ、そんな引っ張んなって」
 セトが通ってきた道を逆に辿る。やはり、なんの音もしないその路地にシオンも次第に違和感を覚え始める。
「・・・・・・セト。もうちょっとこっち寄れ」
 未だに掴まれていた腕を引き、前を歩いていたセトを自身の隣を歩かせる。
「少し急ぐぞ」
 そう言って、駆け出す。背後から迫る黒雲に追い付かれまいとするように。
 しかし、その足は彼らの予想を超えて速かった。
「こんにちは」
 声。酷く耳障りの良い若い男の声だった。
「随分と場違いな兄ちゃんだな」
 振り返りその男を目にしたシオンの第一印象がそれだった。輝くような銀髪に柔らかく細められた眼。その顔に浮かぶのはまるでお手本のような綺麗な笑みだった。
 硬化していた心を溶かすような暖かなそれ。しかして、シオンがその警戒を解くことはない。繋いだ左手が痛いほどに握り締められているのだから。
「ありがとうございます。お褒めの言葉として受け取っておきますね」
 セトの手を一度強く握り返し、優しくその手をほどく。
 目の前の男が誰かは分からないが、義弟は知り合いらしい。友達というわけではないようだが。
「あぁ、そうしてくれ。それで、何で俺たちに話しかけたんだ? 特に用がないのなら、俺たちはもう帰るぜ? 一雨来そうだからな」
 空を指しながら、肩をすくめる。釣られて男も空を見上げる。視線が外れたその隙にセトを自らの背に隠す。
「本当ですね。これは急がなくては」
「そうそう。で、何の用なんだ?」
「えぇ、そうでした。私は貴方方に用があるのですよ」
 男が二人の方へと歩き始める。ゆっくり、ゆっくりと。
「なに、大した用ではないのです。一つ質問をしたいと思いましてね」
 シオンの目の前に立ち止まり、口を開く。
「貴方は、何のために生きているのですか?」
「はぁ? どういう意味だ?」
 あまりにも唐突なその問いに、シオンの思考から一瞬、男に対する警戒心や注意が抜け落ちる。それが合図だった。
「あぁ、あなたも答えられないのですね」
 シオンの瞳に写ったのは眼前を走る閃光と真っ赤な液体。それを最後に視界が暗転する。自分が上を向いているのか、下を向いているのか、それさえも分からなくなり、ブツンと切れた。
「おや、お兄さんは眠ってしまったようです。それでは、今度は貴方に尋ねましょうか?」
 地に伏せるシオンを見下ろし、その後ろにしゃがみ込むようにして隠れていたセトへと視線を移す。
「どうしたんです? 顔色が悪いようですが、まるでとても怖いものを目にしたようではないですか?」
 顔を真っ青にし、ガタガタと震え、後退るセトを見て首をかしげる。その視線を辿るとそこにあるのは自らの腕。正確には彼の手に握られた真っ赤に濡れた刃だった。
「あぁ、これが原因ですか。では、これでどうでしょう?」
 そう言うと腕を軽く振る。すると、そこにあったはずの刃は跡形もなく消え去っていた。
「さぁ、これで怖くないですね。では、改めて――」
 一歩踏み出し、しゃがみ込んでセトと視線を合わせる。
 男の顔に浮かぶのは柔らかな笑み。なんて、そんなものではなかった。
どうして気付かなかったのか、その歪さに、判を押したようにその表情が均一であるということに。
病的なまでに青白い顔。それに反して笑みの奥で輝く紅の瞳。その瞳に魅入られた途端、セトの体は石のように動かなくなる。
「貴方は、何のために生きているのですか?」
 先ほどと全く同じ言葉、同じ口調、同じ調子。まるで、シオンを切り捨てたことが幻であったかのように繰り返す。
「自分のため? 家族のため? お金のため? 夢のため? 快楽のため? 復讐のため? ――私はあなたの答えが知りたいのです」
 獣人殺し。今朝聞いた義兄の言葉が蘇る。何故か目の前の男がそれだと確信できた。尚も獣人殺しは続ける。
「私の財布を持って行ったということは、お金のためなのでしょうか? ですが、先ほどの様子からはお兄さん、と言っても、あなたは狼でお兄さんは熊ですから、義兄弟と言ったところでしょうか? とても仲がよろしいようですね。ならば、家族のために? あぁ、どうなのでしょうか? どうか、教えてください。さぁ、さぁ、さぁ??」
 熱に浮かされたように繰り返す獣人殺しは真っすぐセトの方を見つめる。その熱に浮かされるようにセトはゆっくりと口を開いた。しかし、
「ひぅ」
 口から出たのは詰まったような呼吸音のみ。舌が痙攣し、漏れ出す空気は音を成さそうとしない。
「……お答えいただけないということは、あなたはその答えを持っていないということですね」
 そんなセトに獣人殺しは告げる。天を仰ぎ、芝居がかった動作で大きく手を広げる。ぽつぽつと雨が降り始めた。
「あぁ、なんということでしょう。それはとても悲しいことだ。貴方のような未来あふれる子供が生きる意志を持てない。あぁ、悲しい。本当には私は悲しいのです。やはり、救わなければなりません。哀れな獣人たちを楽園に連れて行かなければならないのです。あぁ、神よ。今から貴方の元に新たな住人をお連れします。どうか、彼に祝福を」
 再びセトに視線が戻った時、獣人殺しの手には先ほどの刃が鈍く光っていた。雨に触れ、赤い雫が滴り落ちる。
「怖いですか? それは、良いことですね。死を恐れるのは生を求めるということです。死が迫った時にこそ、生はより一層輝く。あなたは今、人生で最も素晴らしい時間の中にいるのですよ」
 いっそ優しげな、その声。おびえるセトを見下ろしながら刃が振り上げられる。恐怖からかセトの視界が歪み、暗くなっていく。そして、光が消える直前だった。
「うるせぇよ。この気違い」
 声と共に獣人殺しの体が宙を舞った。そこに立っていたのは、体を血で染めたシオンだった。ドクドクと流れる血は彼の体を伝い、地面に血だまりを作っている。素人であるセトが見ても致命傷にしか見えなかった。しかし、シオンはニカリと笑い、セトの頭を乱暴に撫でた。
「すまんな、ちょっと寝てた。最近寝不足でな」
 人の手足を持つセトと違い、手足も獣であるシオンの手は毛皮だからか、とても暖かい。もう何度か撫でると、セトの腕をつかみ引っ張り上げる。
「さて、セトに一つお遣いを頼もうと思う」
 立ち上がったセトの両肩に手をのせ、その瞳を覗き込む。その握る手の強さと、眼差しの真剣さに小さく頷く。
「よし、それじゃあ――」
「兄弟の微笑ましい会話の途中ですが、失礼しますよ」
 セトの体に再び緊張が走る。シオンはゆっくりと振り返り、そこに立つ獣人殺しを睨む。舌打ち一つ。
「殺すつもりで殴ったんだがな。妙に硬いと思ったよ」
 獣人殺しは小さく肩をすくめ、刃を構える。その顔にはもはや何の表情も浮かんでおらず、その動作は気持ち悪いほどの違和感を覚える。先ほどまでのように片方の手ではなく、両方の手にナイフを構えるその動作には、殴り飛ばされたダメージはまるで見受けられない。
「それは、こちらのセリフです。内臓までえぐったと思ったんですがね、やはり獣人は頑丈だ。知ってはいましたが!」
 言い終わらないうちに、獣人殺しは一足で距離を詰める。左右から同時に繰り出される斬撃。セトはシオンが切り裂かれる未来を幻視する。
しかし、そうはならなかった。シオンは一吠えすると、その両方を腕で受け止める。金属音が響き、刃が弾かれる。開けた獣人殺しの胴体へとシオンの前蹴りが叩き込まれる。
「やっぱり硬いな。なんか着込んでんのか?」
「硬いのは貴方も同じでしょうに、赤銅熊の獣人さん」
 シオンの蹴りは獣人殺しを最初の位置へと押し戻しただけだった。当然、すぐに斬りかかってくる。繰り出される斬撃を受け止めながら、視線は獣人殺しのほうへと向けたまま、セトへと話しかける。
「さて、お遣いの続きなんだがな、ちょっと王都まで出て騎士たちを呼んできて欲しいんだ。獣人殺しが出たと言えば、無視はしないだろう。頼るのは癪ではあるがな」
「ふふ、それは私に聞かせてもいいのですか?」
 獣人殺しが尋ねる。その間にも嵐のような斬撃は止まっていない。金属にも似た性質を持つ毛皮でそれを受け止め続けるシオンだったが、少しずつ、少しずつではあるがその毛皮が剥がれていっていた。
「その間、お前を足止めし続ければいいんだろ? 余裕だよ。」
 その言葉に獣人殺しはシオンの足元で広がり続ける血だまりを見て、薄く笑う。
「そうですか。じゃあ、私も頑張らなければいけませんね。もう少し速くしましょうか」
 言葉の通り斬撃がその勢いを増す。シオンもそれに両の腕を合わせていく。しかし、先ほどまでのようにすべてを防ぎきることはできず、シオンの体に傷が増えていく。
「セト、さっさと行け」
 背に庇うセトに向け、シオンが声をかける。しかし、セトは動かない。固まったままの背中の存在を感じ、シオンは小さく微笑む。そして――
「えっ?」
 蹴り飛ばした。体重をすべて乗せた回し蹴り。腹に衝撃を感じ、セトの体が宙を舞う。地面に落ち、転がる。
「いいから行けって言ってんだよ!! 今のお前が足手まといなことくらい分かれ!! とっとと走れ!! 前だけ見てろ!! 絶対に振り返るな!!」
 うずくまる背中に降ってくる怒鳴り声。今まで聞いたことないほどの迫力に押されるように、起き上がり走り出す。強くなった雨が走るセトの顔を叩く。
 複雑に入り組む路地を駆け抜け、王都がある王城を正面に見据えて走る。
 頭の中に思い浮かぶのは、もはや意味のないもしもの想像ばかり。獣人殺しに手を出さなければ、もっと早くシオンを迎えに行っていれば、そもそも、シオンの言う通りまっとうに働いていれば。後悔ばかりが、駆け巡る。
 顔を濡らすのは雨粒なのか、涙なのかそれすらも分からないような豪雨の中、数時間前に来たばかりの道へとたどり着いた。
 なおも、走りながら人を探すが、そこにあるのは何も言わぬ街並みだけ。一人として、通りを歩いている者はいなかった。
「誰か!! 誰かいないの!?」
 力いっぱい叫ぶ。しかし、返ってくるのは雨が地面を打つ音だけ。誰もいないはずがないのだ。セトの人より何倍も優れた感覚は周囲の家の中に何人もの人の気配を感じていた。でも、彼らが外に出てくることはない。雨だから? いや、セトが獣人だからだ。
 窓からこちらを覗き見ている女性を睨みつけ、再び王城を正面にとらえる。
セトが今走っているのは、王都の外周街と呼ばれる区域。その内側にあるのが王城のある貴族街を取り囲む騎士街だ。
騎士街は王国に使える騎士たちの住居がある区域で、彼らの住処であると同時に王城に向かう人々を見張る関所でもある。
外周街で騎士を見つけ、すぐにでもシオンのもとに連れていく。それが、最善であることは確かだった。しかし、見つからない。ならば、確実に騎士がいるであろう騎士街に行き、連れていくのが次善の策だ。そう考え、痛む肺と脚にむち打ち、速度を上げる。
 視界を走り抜けていく風景がごちゃごちゃとした無秩序なものから、徐々に規則正しく整理されたものへと移り変わっていく。騎士街に入りつつあったのだった。
 果たして、セトの視界に数人の人影が映り始める。最初は、米粒ほどにしか見えなかったそれも、セトが近づくにつれ大きく、詳細になってくる。
 その身を包む白銀の鎧と腰に携えた王国の紋章の刻まれた長剣。それは、王国の騎士である印だった。
やっと見つけた。セトの足がようやく動きを緩め、彼らの前で止まる。セトよりも身長の高い彼らを見上げ、叫ぶ。
「助けて。獣人殺しが、シオンがまだ戦ってて、このままだとシオンが死んじゃう。助けて!」
 いっそ縋り付くように彼らに迫り、必死に訴えかける。その言葉はもはや文章の体を成さず、しかし、重要なこと獣人殺しという名と、助けてという懇願を繰り返す。
それだけでも、彼らは事情を察することが出来た。『獣人殺し』が王国内で指名手配されていること。その名が示す通り彼が狙うのが獣人であること。この王都に獣人が住むのは獣人街以外にないこと。後、助けを求めているとなれば、おのずと分かるというものだった。
 騎士たちはセトを見下ろし、その身なりに目を走らせる。雨に濡れ、血に、泥に塗れ、ぐしゃぐしゃに顔をゆがめたセトの姿を認め、そして小さく笑った。
「――誰が獣人なんぞを助けるか。ばぁか」
 セトの顔に裏打ちが叩き込まれる。水平というより、むしろ振り下ろすように繰り出されたそれは、セトの体をいとも簡単に地面に叩きつけた。
 騎士を見つけ、安心しきっていたセトは呆然としながら地面に蹲る。遅れてきた痛みがジンジンとセトの頬を焼く。その彼に降ってきたのは嘲笑だった。
「獣人殺しが現れた? 結構なことじゃねぇか。王都に巣食う薄汚い獣人共を自主的に掃除してくれるってことなんだからよっ!」
 セトの腹を蹴り上げる。肺の中の空気がすべて押し出され、その後から喉を焼く何かがせり上がってくる。
「うげ、こいつ吐きやがった。汚ねぇ」
 先ほどとは違う声。聞こえる物音から数歩後ずさったらしいことが分かる。
 喉をふさぐものを吐き出そうと激しくせき込み、蹴られた腹を庇うように丸くなる。痛みに対する恐怖と獣人殺しへの恐怖が混ざり合い、くらくらと目が回る。
 なおも、断続的に体に加えられる衝撃。痛みすらも追いつく暇もないほどに、絶え間なく繰り返される。合間に挟まれる罵声は脳を通り過ぎ、その意味をセトが理解することはない。それを、行えないほどに意識が薄れつつあった。
 でも、そんな中でさえセトの口は微かに動き続ける。それはもう、セトの意識外での行為だった。
もし、未だにセトに暴行を加え続ける騎士たちが、そのことに気づき耳をセトの口元に寄せたのならば、それを聞き取ることが出来ただろう。喘ぐ様な呼吸に乗せて、繰り返される助力の懇願に。
しかして、騎士たちはそれに気づくことなどない。やがて、セトが動かなくなった頃。ようやく、彼の上から足をのけた。
「さぁて、そろそろ終いにするかな」
 暴行が止んだことで多少なりとも余裕が出来た、セトはその言葉に安堵する。しかし、それはすぐに恐怖へと変わった。
 金属がこすれる音がした。シオンの鍛冶場で何度も聞いた鞘走りの音が。光が見えた。霞む視界に雨の中でも光る怪しい光を。
「試し切りしときたかったんだよな」
 剣が空気を切り裂いていく音がする。セトの耳は騎士がゆっくりと剣を振り上げていくそのかすかな音でさえ、捉えていた。捉えてしまっていた。
 死ぬ。自身の未来がはっきりと見えてしまった。何とかその場から動こうとするが、動くのは指先だけ。しかも、それもほんの僅かだった。
 終わってしまう。義兄から託された願いさえ成し遂げることが出来ず。ただ、無為に終わってしまう。それは、あまりにも許しがたいことだった。
「さぁ、神にお祈りを捧げな。おっと、獣人に神はいないんだったな。じゃあ、仕方ねぇな――あばよ」
 刃が迫る。数瞬の内には、セトの命は切り裂かれるだろう。絶望がセトの心を染め上げていく。終わりだ。もはや、覆らない絶対的な終わり。それを、覆すのはもはや人の力では不可能だ。
だから、それが覆ったならば、それは運命と呼ばれる。
「やめなさい。それは、正義にもとる」
 声だった。恐らくセトと同年代。決して大人とは言えないほど甘く、美しい。そして、凛とした声。
 セトの頭上で甲高い金属音が鳴った。騎士の振り下ろした剣は、横から差し出された別の剣に止められる。
「もう一度言います。貴方たちの行為は正義ではない。ですから、私は許しません」
 近づいてくる。一歩、一歩、確かに踏みしめて。
そこにいるのは、一人の少女だった。雪のように真っ白な髪。騎士たちを見つめる深紅の瞳。その色合いはどこか幻想的な印象を抱かせる。その相貌を怒りに染め、それであっても、あまりに美しい少女だった。
 いつの間にか、雨がやんでいた。




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